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魔法少女フルメタなのは 第二話「流れ着いた兵士達」 ミッドチルダの首都クラナガン。その一角にある時空管理局機動六課隊舎。 先程まで静寂で包まれていたこの場所だが、今ではエマージェンシーコールが鳴り響く騒がしい場所となっている。 「何が起こったん?」 作戦室に入ってきたのは六課の部隊長にしてオーバーSランク魔道士、八神はやてである。「強大な次元振反応を確認、その同地区に大型の熱源が出現するのを感知しました。」 「場所は?」 都市部の外れ、廃棄都市区画です。」 はやての問いに、六課メンバーのシャーリーとグリフィスが答える。 「スターズ分隊を目的地に調査に向かわせてや。ライトニング分隊は出動準備のまま待機や。」 「了解。」 六課フォワードメンバー・スターズ分隊は輸送ヘリ「ストームレイダー」で廃棄都市区画へと向かう。 「ねぇティア、次元振はともかくさ、大型の熱源て何だろうね?」 スターズメンバーの一人、スバル・ナカジマが言う。 「アンタね、それの調査があたし達の仕事でしょ!?」 同じくスターズメンバー、ティアナ・ランスターが呆れ気味に答える。」「あ、そっか。」 「ハァ…アンタは本当にいつもいつも…」 あっけらかんと言うスバルに対し、ティアナは嘆息する。 「にゃはは…まぁガジェットの反応もないし、それ程危険な事にはならないよ。」 スターズ分隊長、高町なのははそんな二人を見て、苦笑しながら言う。 「でも何があるのかは分からねぇんだ。あんまし気を抜くなよ。」 スターズ副隊長、ウ゛ィータが忠告する。 「「はい!!」 「ったく、返事だけは一人前だな…」 「にゃははは…」 とても任務中とは思えない空気のまま、ヘリは目的地に到着した。 「データだとこの辺りの筈だよ。」 「あっ、あれじゃねぇか?」 ヘリから降り、バリアジャケットを装着した四人は、少し広い場所に倒れていた“それ”を発見した。 「これって…ロボットっていうやつ?」 そこにあったのは、8メートル程の大きさの白と灰色の二体の鉄の巨人だった。 「うん…一般的にそう言われる物だろうね。」 ティアナとなのはは静かにそう呟く。 が、スバルはというと… 「すっごーい!!!ねぇねぇティア、ロボットだよロボット、くぅ~かっこいいー!!」 子供のようなはしゃぎっぷりであった。 「うっさいバカスバル!!」 「あう!」 お気楽な事を普通に言うスバルに、ティアナは脳天チョップを利かす。 「はしゃいでんじゃないわよ!危険なモンだったらどうすんのよ!ですよね、ウ゛ィータ副隊長?」 ティアナはウ゛ィータに同意を求めるが、当の副隊長は、 「ああ…そうだな…」 上の空で聞き流し、目をキラキラさせながらロボットを見ていた。 「………」 完全に沈黙するティアナ。 「あ、あははは…まぁとにかく調査しないとね。」 気を取り直してロボットに近付なのは。 しかし、彼女が軽く表面に触れた瞬間、二機のロボットが光を発した。 「な、何!?」 光は機体全体を覆い尽くし、それが収まった時、そこにロボットの姿は無かった。 「あ~っ、かっこいいロボットが~!?」 「なのは、テメェ!!!」 非難と怒号を同時にぶつけるお子様コンビ。 「え、えぇ~!?」 悲しみと怒りを宿す瞳に詰め寄られ、後退るなのは。 それを呆れながら見ていたティアナだが、ふとある物を発見した。 「皆あれ見て、人が倒れてるわ!」 その言葉に騒ぐのを止める三人。そして前方を見るとロボットのあった場所に二人の男が倒れていた。一人は金髪の青年、もう一人は黒髪の少年だった。 「大丈夫ですか!?」 急いで駆け寄るなのは達。 「…大丈夫、生きてるよ。ロングアーチに連絡、至急医療班を!」 生命反応を確認し、指示を飛ばすなのは。 「ふぅ、あとは…ん?」 連絡を終え、倒れている二人を運び終えたスバルが、何かを見つけて拾った。 「これって…デバイス?」 「う…」 意識を回復させた宗介は、まず自分がベッドに寝かされている事に疑問を抱く。 (どういう事だ…俺はたしかアーバレストのコックピットにいて、あの光に…) そこまで思い出して、宗介は飛び起きた。 「クルツ!!」 自分を救う為に巻き添えになった仲間の名を呼び、周りを見渡す。 「すぅ…すぅ…」 隣のベッドでまだ眠っている相棒を見つけて安堵する宗介。 「クル…」 そして手を伸ばして起こそうとした時、部屋の扉が開いた。 「あ、目ぇ覚めたん?良かった~、ケガとかないのに丸一日も眠ってたから心配したんよ?」 入ってきたのはなのは、はやての二人であった。 しかし、二人の姿を確認した途端、宗介の表情に警戒の色が浮かんだ。 「君達が俺達を助けてくれたのなら、まずはその事について礼を言う。だが、ここはどこだ?君達は誰だ?」 長年の軍隊生活で身に着いた口調と癖がここでも発揮された。 それを聞いたはやて達は表情を少し曇らせる。 「ご挨拶やなぁ~、こんな美少女が目の前におるのに、他に言うことないん?」 そう言って冗談めかしてセクシーポーズをとるはやてだが、彼を知る者なら誰もが認めるミスター朴念仁の宗介に、それは通用しなかった。 「美しくてもそうでなくても、見ず知らずの人間を簡単には信用できん。第一、君は少女という年齢には見えん。」 言った瞬間、部屋の空気が凍り付いた。はやては先程のポーズのまま固まっていた。 「はやてちゃん…」友人を心配するも、掛ける言葉が見つからないなのはだった。 その後、何とか復活したはやては宗介に自己紹介と幾つか質問をし、彼が管理外世界の人間である事を確信した。 そしてここが魔法世界であるという事実は、起動したデバイスや簡単な魔法を見せることで理解させた。 「何と…だが、しかし…」 今一つ納得しきれない宗介に、背後から声がかかる。 「オメーはいい加減、その石頭を軟らかくしろよなソースケ。」 「クルツ、起きていたのか。」 クルツはむくりとベッドから起き上がり、三人の方に向き直る。 「あぁ、今さっきだがな。それより魔法の世界とはな~、ぶったまげたぜ。」 「まぁそうだろうね。私も初めて知った時は驚いたよ。」 そう語るなのはにクルツは目を向け、 「あんたも俺らと同じなのか?」と聞く。 「近いところはあるかな。ここへは私の意思で来たんだけどね。」 「ふーん。あ、それより助けてくれた事の礼をしてないな。」 「ええよ、そんなお礼なんて~。」 「何ではやてちゃんが照れるの…」 「まぁ二人とも関係してるからな、お礼は両方にしなくちゃな。では、まずはやてちゃんから…」 そう言うとクルツははやての手を取り、ゆっくりと顔を近付けて行く。 「ちょっ、クルツさん!?」 突然近寄ってきたクルツの甘いマスクに、はやては顔を真っ赤にする。「大したことはできねぇけど、せめて俺の熱いベーゼを…」 だが、彼の唇がはやてのそれと重なる事は無かった。なぜなら… 「はやてから離れろおおお!!」 遅れてやって来たヴィータが状況を瞬間的に判断、起動したグラーフアイゼンをクルツに叩き付けたからだ。 「ぐふぅ!!!」 クルツは勢いのままに吹き飛び、壁面とキスすることとなった。 そんな中、宗介は一言、 「良い動きだ。」とだけ言った。 物事に動じない男であった。 騒ぎが収まった後、はやては二人に話しかけた。 「ほんでな、今日うちらが来たのは見舞いだけやのうて、二人に話があったからなんよ。」 宗介、クルツの両名は顔を見合わせる。 「話とは、一体何だ?」 「うん。二人とも、一般人やのうて、何処かの組織と関わりのある人やろ?」 それを聞き、二人は表情を硬くする。 「何故そう思う?」 「宗介君のしゃべり方、クルツさんの着てた戦闘服、何より二人の持ってた認識票と拳銃。一般人と信じろっちゅー方が無理や。…本当の事、話してくれへん?」 何も言い返せない二人。宗介は少し考えた後どうしようもないと判断し、事情を話し始めた。 「俺達は、ミスリルという紛争根絶を目的とした組織の兵士だ…」 機密には触れない程度の情報、そしてここに来たおおよその経緯を話す。 「その光に飲み込まれた後、気付いたらここにいた。間の事は何も覚えていない。」 「…成程な。大体の事情は分かったわ。」 話を聞き終えたはやてはそう言った。 「まぁ今の話聞いたんは局員としての仕事の一環や。必要な所以外では話さんから安心してや。」 「助かるぜ、はやてちゃん。」 口元を綻ばせてクルツが言った。 「で、もう一つだけ聞きたい事があるんや。こっちは私の要望が主なんやけどな。」 「何だ?言ってみろ。」 「うん。君達二人、魔道士になる気はあらへん…?」 続く 戻る 目次へ 次へ
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最近、考え込むことが多くなった。 ――あたしは、何を目指しているのだろう? こんな風に考える切欠は何時だったか。 訓練校に入った時? そこを卒業した時? それとも、Bランク魔導師の試験に合格した時? 違う。 <機動六課>に入隊した時だ。 そこから、自分の人生は大きく動き始めた。 一歩一歩の小さな歩みが、途端に大きく足を跳ね上げ、追い風に乗って走り始めた。 遠く仰いでいた『何が』見え始める。 だからだろうか? 自分の行き着く先を、とりとめもなく考える時間が増えた。 決まっている。決まっている筈だ。 漠然とした目的で、凡人の自分がここまで辿り着けるはずがない。 苦しみに膝を着き、悔しさで地を這った時、自分を支えたのは不変の誓いだった。 受け継いだこの<弾丸>で、兄の目指した正義を貫き通す。 その為の手段は明白で、目指すべき頂もハッキリと見えていた。 しかし、実際にその道を走って気付く――。 自分の行く道には、どうしようもなく多くのものが転がっているという事実に。 それは障害であり、足を引っ張るものであり、煩わしいものであり――また同時に、支え、導き、癒してくれるものでもあった。 それらに触れながら、時には抱えながら、少しずつ自分の荷物を増やしながら走っていく。 重くなどない。むしろ――。 「――ィアナさん。あの、ティアナさん?」 「え?」 我に返ったティアナの視界にキャロの心配そうな顔が映った。 物思いに耽っていたらしい自分の信じられない気の抜きようを戒めると、それを表には出さず周囲を見回す。 木々が並ぶ見慣れた訓練場の風景が目に入り、ティアナは自分の状態を冷静に理解した。 「ごめん、ボーっとしてたわ」 「ティアがボーっとするなんて、相当のことじゃない? やっぱり疲れが溜まってるんだよ」 自分と同じ分量の自主練習をこなしながらも、こちらはますますエンジンが掛かっているような高揚した様子の傍らでスバルがパートナーを案ずる。 「違うわよ、フォーメーションを考えてたの。アンタが物を考えないからあたしが脳みそ酷使することになるんでしょうが」 「ひどっ! まるでアホの子みたいに言わないでよ!」 「違うの?」 「何、その心底不思議そうな顔!」 「もしもし、入ってますか? ナカジマさん、お留守ですか?」 「痛っ! 痛い、やめてたたかないでノックしないでっ!」 叩くとコンコンいい音を立てる頭の中身を割りと本気で心配しながら、ティアナはスバルの追及をかわせたことに安堵していた。 無理をしているのは自覚済みだ。 他人の心配事となると勘の良いこの相棒には、あまり踏み込んで欲しくなかった。 彼女の好意が煩わしいなどとは思わない。 ただ、他人事の薄い言葉だと思えるほど、自分はスバルに心を許していないわけではないのだ。 その時ふと、ティアナはつい先ほどまで考えていたことを思い出した。 道を進む上で巡り合った、他人との数奇な出会い。 スバルと、そしてエリオやキャロ。高町教導官を始めとした、多くの先達たち……。 「ティ、ティアナさん……よろしかったら、その……これ」 弱弱しく差し出されたドリンクのボトルを一瞥し、ティアナはそれを持つ少女の小さな手を辿った。 ロクに相手の顔も見れないほどの緊張で真っ赤に染まり、それでも拒絶される恐れと純粋な好意でドリンクを渡そうとする健気な姿がある。 ティアナは時折見る、キャロのそういった人と関わろうとするささやかな勇気を微笑ましく思い、笑顔でボトルを受け取った。 「ありがとう。喉渇いてたのよ――ゲブォハッ!?」 スバルに言わせれば『デレ』であるらしい貴重な笑顔でボトルを煽り、次の瞬間ティアナは奇怪な声と共に口と鼻の穴からドリンクを逆流させた。 史上最悪の毒を含んでもこうはならないという凄惨な姿でのた打ち回り、スバルとエリオは硬直し、それを成した張本人のキャロは自らのへの恐怖で小さな悲鳴を上げた。 「ティアァァァーーー!? どうしたの、何が起こったの!?」 「……何コレッ!?」 鼻から奇妙な液体を垂れ流したティアナは鬼気迫る形相でキャロに食って掛かった。 その異様な迫力に哀れな少女は危ういところで失禁するところであった。 「ス、スポーツドリンクですぅ……オリジナルブレンドの」 「セメントでもブレンドしたっての!?」 「よく分からないですぅぅっ! シャーリーさんに教わったまま混ぜて……っ」 あのマッドメガネめ、スケボーのように隊舎内を引き回してやる! 罪の無い無垢な少女から確信犯へと怒りの矛先を転換させたティアナは強く誓った。 「あの……ごめんなさい。ティアナさん、疲れてるみたいだから、栄養が付く物をってわたしが頼んで……」 必死に言い繕うキャロの表情には涙と、自分の為したことへの深い後悔が滲み出ていた。 頭を抱えたくなるような理不尽な気持ちがティアナの心に湧き上がる。 何処か他人から一歩退いていようとする少女の歩み寄りを、自分は拒絶してしまったのだ。そこにやむを得ぬ事情があるにせよ。 ああ、畜生。やってらんない。そんな悪態を吐きながら、体は勝手に動く。 キャロの抱えるボトルを奪い取ると、その凶悪な中身を一気に喉の奥へ流し込んだ。 「ティア、死ぬ気!?」 「無茶ですよ!」 「ああっ、ダメです……っ!」 周囲が口々に止める中、ティアナは不屈の精神でその粘液を飲み干した。 「……キャロ」 「は、はい!」 「クソ不味いわ」 呻くように吐き捨てると、ティアナは空になったボトルをキャロに渡した。 「次は、普通のドリンクを頼むわね」 「……はいっ!」 そっぽを向いて投げ捨てられたティアナの言葉の意味を理解し、キャロは満面の笑顔で頷いた。 様子を見守っていたスバルとエリオの顔にも自然を笑みが湧いてくる。 それから、気分の悪さとは裏腹に体調は異常なほど回復したのは決してあの呪いのドリンクの効能などではなく偶然だと思いたい。 気が付けば暖かなものに囲まれていた。 同じ志を胸に宿す仲間達。 目指すべき指針となって、行く先の空を飛ぶ英雄。 この背を預ける唯一の相棒。 そして――。 『―――がんばれよ。お前ならやれるさ』 この出会いの数々はある種の幸運であると、認められる。 多くの大切なものに自分は恵まれているのだ。 ――だが、そうした優しい日々の中でも決して忘れられない過去があった。 兄は死んだ。 両脚と左腕を失い、酷く綺麗な死に顔が現実感を与えてはくれなかった。 残された右腕にはデバイスが握り締められていたらしい。最後までトリガーを引き続けて。 決して無くならない現実がある。 兄が命を賭して放った弾丸は届かず、撃たれるべき者が今まだこの世界でのうのうと生き続けているという現実が。 過去と未来。 どちらを優先させるべきか。 答えなど出ない。きっと誰にも。 ただ考えるのだ。 この満ち足りていく日々の先で、夢を叶え、頼れる仲間と共に自らの信じる正義を成し、いずれ兄の仇を正当な裁きの下で打ち倒す――そんな理想の傍らで、否定に首を振る自分がいる。 それも一つの選択なのかもしれない。 でも、ダメだ。 どうしても出来ない。 穏やかで優しい日々の中、まるでぬるま湯に浸かる自分を戒めるように脳裏を過ぎる兄の死を、ゆるやかに忘却していく事など。 それは愚かしいのかもしれない。過去に捕らわれているのかもしれない。 だけど。 ただ一つ。報われるものが欲しい。 『無能』『役立たず』と罵られ、その死を悼まれることも無く死んでいった兄の魂に捧げられる何かが欲しい。 その為ならば、仲間よりも、幸福よりも――これから続く優しい日々よりも。 ただ一発の<弾丸>が欲しい。 全てを貫く魔の弾丸が欲しい。 どちらの道が正しいかなど分からない。 ただ、どちらが幸福かは明白だ。 それでも尚、考え続ける。 そして今、一つの答えが出ようとしている――。 魔法少女リリカルなのはStylish 第十六話『Shooting Star』 実出動僅か2回の新人魔導師と前線に立ち続け多くの新人を導いてきたベテラン魔導師。 Bランクにされて間もない飛行魔法未修得の陸戦魔導師とリミッター付きとはいえ実質S+ランクの空戦魔導師。 その二人が戦えばどうなるか? 予測など容易い。決着は火を見るより明らかであった。 少なくとも、その戦いを見守るほぼ全ての者達が予見していた。 ――しかし。では、この緊迫感は一体何だ? 誰もが固唾を呑んでいた。 空気が張り詰め、ピリピリと乾燥している。 戦闘の意志を明確にしたなのはとティアナの対峙に、全ての物事が息を潜めている。 緊張の糸は緩まず、切れもせず、ただギリギリのところでピンと張り詰めていた。 それは、この二人の拮抗を意味するのではないか。 『結果は見えている。しかし――』 誰もが予想し、しかし心の片隅でそれを疑う気持ちを抑えることが出来なかった。 「――いくよ、ティアナ!」 静かな対峙をなのはの宣告が崩した。 油断を戒めるような緊張感がなのはに全力で戦うことを忠告していた。そして、だからこそ確実な手段を取る。 先制攻撃として<ディバイン・シューター>の魔法を瞬時に展開した。まずは様子見だ。 <ウィングロード>の限定的な足場で、飛行能力を持たないティアナには誘導性を持ったこの攻撃さえも脅威となる。 油断ではない。が、上手くすれば一瞬でカタが付く。なのははそう思っていた。 なのはの周囲に桃色の光弾が幾つも形成される。 そして――次の瞬間<銃声>と共にそれら全てが弾け飛んだ。 「な……っ?」 なのはの驚愕は、状況を見る者全ての心を代弁していた。 形成とほぼ同時に他の魔力との衝突で相殺されたスフィア。桃色の残滓が空しく周囲を散っている。 なのはは、それを成したティアナの姿を凝視した。 突きつけられた二つの銃口から薄い白煙を上げ、不敵な笑みを浮かべる彼女の姿を。 「撃ち落とされたの!?」 《Positive.》 レイジングハートが無機質に肯定した。 ほぼ全ての射撃魔法に言えることだが、発射には『魔力を集束しスフィアを形成して放つ』という過程が存在する。誘導という術式を付加するならば尚更だ。 ティアナはその一瞬のタイムラグを突いたのだった。どんなに強大な力でも発生の瞬間は小さな点である。 「訓練で嫌と言うほど味わいましたから。高町教導官の誘導弾は、一度放たれれば飛べない私にとって脅威です」 しかし、その一瞬を見極め、正確に行動出来るかと問われればやはり疑わざるを得ない。 「だから、撃たせない」 目の前の現象が、ティアナの言葉のまま簡単な話でないことはなのはにも理解出来た。 可能にした要素は幾つか在る。 ティアナの魔力弾は魔導師の中に在って異質だ。どんな射撃魔法よりも弾が速い。 誘導性を一切捨て、過剰圧縮による反発作用を加えた実弾並の弾速を誇るティアナの魔力弾だからこそ、相手の行動に反応してから撃ってもなお先手を取れたのだ。 だが、数も出現位置もランダムな標的にそれを全て命中させたのはティアナ自身の磨き上げた腕前に他ならない。 それは魔導師ならば――どんな射撃魔法にも命中率に多少なりとも弾道操作による補正を入れている、なのはですら及ばない射撃能力だった。 その力に戦慄し、同時になのははそんなティアナを想う。 何故、その自分の力を誇ってくれないのか。 「溜めのある魔法は命取りだと忠告しておきます!」 駄目押しのように告げ、ティアナは魔力弾を発射した。 実弾に匹敵する弾速を人間の動体視力で捉えられるはずもない。魔力反応、銃口の向きによる弾道予測、反射神経、全てを使ってなのははそれを回避した。 防御ではなく回避。咄嗟の判断だったが意味はあった。あのまま場に留まって射撃の応酬をしていれば、近くにいたスバルを巻き込んでいただろう。 今のティアナは他人を配慮する余裕や甘さなど持ち合わせていない。あの<悪魔>を撃った時のように。 なのはは<ウィングロード>の足場から飛び出し、そのまま飛行してティアナの死角に回り込みながら狙い撃つ。 チャージ時間を短縮した<ショートバスター> さすがにそれを止める猶予は無かった。 しかし、ある程度威力を犠牲にしてなお脅威的なその砲撃を、ティアナは半身を反らした紙一重の動きで避けた。 髪を掠めて肌のすぐ傍を圧倒的な魔力の奔流が走り抜けていく。その瞬間に瞬き一つせず、表情はただ不敵に笑うだけ。 「――狙いが甘いですよ、教導官」 カウンターのようにティアナの魔力弾が放たれた。 威力も魔力量も遥かに劣る、しかしただひたすら硬く速い弾丸が、飛行するなのはの機動予測地点へ正確に飛来した。 成す術も無く肩に命中し、走り抜ける痛みと衝撃になのはは小さく呻いた。 なのはのバリアジャケットは長時間の展開を目的とした軽量の<アグレッサーモード>を取っているが、それでも魔力に底上げされた基本防御力は一般魔導師のそれを上回る。 その防御が砕かれていた。 直撃を受けた肩の部分が破れている。一見すると布のようだが、付加された特性を考えればそれは鎧を撃ち砕いたに等しい。 訓練の時とは違う。手加減も配慮も無い。 明確な意思と決意の下の戦いで、鉄壁の防御を誇る高町なのはが受けた久方ぶりのダメージであった。 「命中率を誘導性に頼りすぎです」 「……やるね」 ある種の快挙ですらあるその結果を誇りもせず、ティアナは油断無く銃口を突きつけたまま皮肉げに言った。 それが挑発であることは分かっている。しかし、なのはは悔しげに笑わずにはいられない。 油断しないと言いながら、心の何処かでタカを括っていたのだ。自分は有利だ、と。 そんな自分を嘲笑う。 そして認めた。 もはや目の前の少女は、完全に<敵>である、と。 自らも工夫し、力と技を駆使して打ち倒さなければならない相手なのだ、と。 そうでなければ、何を言ったって自分の言葉は彼女の決意を1ミリも動かせやしない。 「教導官の強さは認めますが、アナタの認識だけで何もかも測れると思わないことです。だからアナタのこれまでの訓練は……」 「ティアナ、今回はよく喋るね」 更に挑発を続けるティアナに対して、なのははむしろ嬉しそうでもあった。 「普段も、それくらい気安く話しかけてくれてよかったのに」 「……黙れ」 感情が露わになる前に冷徹な仮面を被り直し、ティアナは無慈悲な射撃を開始した。 《Accel Fin》 急加速。 初弾を回避した瞬間、移動先を読んだ第二射が正確無比に飛来する。 なのはは咄嗟にラウンドシールドを展開してこれを防ぐ。 更に数発の弾丸が障壁を叩いたが、さすがにその防御を貫くことは出来なかった。 やはり高町なのはの防御力は鉄壁。本気で守りに回れば、ティアナの攻撃力では突破出来ない。 その事実にティアナは舌打ちし、同時にすぐさま思考を切り替えて両腕に魔力を集束し始めた。 自分の射撃は一度なのはの障壁を抜いている。要は状況とタイミングだ。必ず一撃を通せる瞬間がある。それを捉える。 戦意を衰えず、むしろ集中力を高めるティアナの前でなのはがシールドを解除した。 もちろん撃たない。これは隙ではない。必ず何らかの意図がある。 その予想に従うように、なのはがレイジングハートをティアナに突き付けた。 「今度はこっちからいくよ」 当たるか。 直線射撃なら回避、誘導弾なら迎撃。いずれの行動にも瞬時に移れるようティアナは身構える。 そんな万全の態勢を前にして、今度はなのはが不敵に笑う番だった。 「――フェイントだけどね!」 《Accel Shooter》 目を見開くティアナの視界で三条の閃光が空を走った。 「何っ!?」 タイムラグ無しに<ディバイン・シューター>より更にチャージ時間を必要とする<アクセル・シューター>を放ったという事実。 集中して見ていたが、狙うべき魔力スフィアの形成は確認されなかった。 驚くティアナを尻目に、なのはの『背後』から鳳仙花の種のように飛び散った三つの魔力弾が空中で軌道を変更し、標的目掛けて一斉に襲い掛かった。 手遅れだと思いながらもティアナは答えを知る。 なのははシールドで防御した際、障壁の輝きで視認を妨害しながら、更に自らの背後で魔力を練り上げていたのだ。攻撃の前動作を隠し、同時に射線を体で遮れるように。 今更もう遅い。恐るべき誘導性を持つ魔法は放たれてしまった。 回避が不可能ならば、スバルのような機動性も持たない自分が逃げ切ることもやはり不可能。 クロスミラージュが自らの判断でシールドを展開し、そうと意図せず両腕に集束していた魔力を防御力の後押しとする。 「うわぁっ!」 シールドが魔力弾を受け止める。 しかし、カートリッジの魔力増加無しにしてもその威力は凄まじかった。 一発目がシールドごとティアナの体を揺るがし、二発目が盾に亀裂を入れ、三発目がついに砕く。 互いに相殺し合う形であったが、反動でティアナの体は<ウィングロード>から弾き出された。 咄嗟にアンカーを撃ち出し、頭上に走る別の足場まで移動する。 その間、致命的な隙でありながら、なのはは追撃を行わなかった。 それは、ティアナが最初の攻撃でスフィアを撃ち抜いた後、一瞬無防備になったなのはをそのまま撃たなかった理由と全く同じである。 「――視野を広く持つように、って教えたよね?」 睨み付けるティアナの感情的な視線を戒めるように、なのはは言った。 「一歩退いて、相手を観察することも重要だよ。魔力の動きにも気をつけて。ティアナは五感を鍛えてる分、その辺の感性が鈍いよ」 「う、うるさいっ!」 仮面が剥がれ落ち、苛立ちとそれに隠れた羞恥がティアナの顔に浮き彫りになる。 意外と激情家なんだな。やっぱりヴィータちゃんと気が合いそう。 クールな少女の新しい発見に、場違いな感心と納得を抱きながら、それを心の片隅へ追いやって、なのはは更なる戦闘の為に行動を開始した。 「お話――聞かせてっ!」 「驚いたな……。ティアナ、なのはとしっかり渡り合ってるよ」 ビルの屋上でキャロ達と共に上空の様子を見上げていたフェイトは思わず呟いていた。 思う事は多い。 二人の戦闘までの経緯はしっかり聞き及んでいた。ティアナの言い分も分かるが、なのはの普段の苦労を知る側としてはその意思を汲んで欲しいというのが本音だ。 だが今は、そんなどちらが正しいとか味方するとかいう話は置き、ただ純粋に感心せざる得ない。 ティアナの意志は、なのはの意志に決して劣らない。 彼女にはそれほどまでに強い決意があるのだった。 それ故にぶつかり合わねばならないという現実が、どうしようもなくやるせないものではあるのだが。 「……フェイトさんは、どっちが勝つと思いますか?」 フェイトの漏らした呟きを聞いたエリオが躊躇いがちに尋ねた。 「それは、どっちに勝って欲しいって聞きたいんじゃないかな?」 「……そうかも、しれません」 「エリオはどう?」 「ボクは……ティアナさんを、応援したいです」 意外にも、エリオはフェイトの眼を真っ直ぐに見返して明確な答えを告げた。 保護者であり恩師であるフェイトに対して、何処か一歩退くような遠慮を見せるエリオには珍しい我を貫く姿勢だった。 「勝てば、ティアナさんはきっと孤独になります。スバルさんに言ったことは本心じゃないって信じてますけど、でも望んだ結果だとは思います。 でも……それでもティアナさんが自分の目標の為にそれを本当に望むなら、ボクはそれを叶えて欲しい。 その上で、例えティアナさんが独りを望んでも、ボクが勝手について行くだけですから。あの人が、未熟なボク達を信じて、導いてくれたように」 「そっか……」 そのことにショックなど受けない。むしろ嬉しく思う。 エリオにも、そうして貫くべき意志と守るべき大切なものが見つかったのだ。 自分にとってなのはと過ごした10年がそうであるように、エリオにとってティアナや他の仲間と乗り越えた苦楽こそ、月日の長さを超えた大切な経験なのだろう。 人との付き合い方はそれぞれ違う。 確かに、自分やなのははティアナのことをエリオ達に比べて知らない。 だからこそ、二つの意志は相反するのだ。 「わたしは……」 ただ黙って、悲痛な表情で戦闘を見上げていたキャロが、震える声で呟いた。 「どっちにも勝って欲しくない。ううん、勝ち負けなんてどうでもいい。 なのはさんとティアナさんが無事なら……戦うのをすぐに止めてくれたら、それでいい……」 「キャロ……」 「だって! おかしいですよ、こんなの……だって二人ともいい人です。優しい人です。敵じゃないんですっ!」 キャロは涙を流し、誰にもぶつけられない訴えを嗚咽と共に吐き出していた。 親しい人達が戦い合うこと――キャロにとって、それ自体が既に<痛み>であった。 「どうしてですか、フェイトさん? 戦うって、悪い人を倒す為や、大切なものを守る為にすることでしょ? ティアナさんは悪い人じゃないし、なのはさんは何かを壊そうとしてるわけじゃないっ。じゃあ、戦わなくていいじゃないですか!」 「違うよ、キャロ。これは……」 「嫌だよ、エリオ君……こんなのやだ……」 縋り付くキャロを、エリオはただ弱弱しく支えることしか出来なかった。 フェイトもただ痛ましげに見つめ、告げる言葉が無い。 幼いながらも呪われた人生を経験してきた。その上で差し出された手に救われ、再び人を信じ、仲間の暖かさに癒された。その無垢な少女にとって、これがこの戦いへの答えだった。 キャロの言葉はあまりに純粋で、単純だ。 だが、真理でもある。 フェイトとエリオは目が覚める思いだった。 ああ、そうだ。どんな事情があれ――親しい人達が傷つけ合うのは嫌だ。胸が痛む。 なのはが、そしてティアナもきっとそうであると。 二人は改めてこの戦いの厳しさと悲しさを知った。 「そうだね、キャロ。痛いことだよ、戦うって……」 フェイトはキャロの頬を伝う涙を優しく拭った。かつて、初めて彼女と会った時そうしたように。 だが今流れるこれは悲しみの涙だ。 「嬉しい時にも流れるけど、やっぱり苦しい時や悲しい時に涙は出るんだ。私もそれを見たくない。でも……」 キャロの顔をそっと自分に向け、視線を合わせて囁くように告げる。 「それが<人間>だから――。 どうしても分かり合えなくて、気持ちはすれ違って……それでも感情をぶつけ合いながら歩み寄っていくのが、人間だけが出来る戦い方だから」 「人間だけが、出来る……」 「涙を流せるってことは、心があるってことだよ。 これは、その心の戦い。どっちが悪いとか良いとかを決めるんじゃない。多分正しい答えなんて無い、それ以外を決める戦いなんだ」 後はもう何も言わず、フェイトはただ黙って空を見上げた。 止めること無く、横槍を入れることも無く、ただ見届けなければならない。この戦いの決着を。 なのはとティアナ。 かつて、自分となのはが戦った時のように、この決着でこれまでの何かが変わる。 それがより良い未来への分岐なのか、最悪の道への一歩なのか。それは分からない。 10年前、自分が戦った時。向けられたなのはの想いを否定した。完全な拒絶と敵意を持って戦い合った。 あの日のことは、多分一生引き摺る負い目だ。それは似たような境遇で戦ったヴィータも同じだろう。 だが、あの戦いは必要だった。 あの時に、自分は岐路を得て、選び、そして今此処にこうして立っている。 だから後悔は無い。あの時の決着と出た答えに。それだけはハッキリと言える。 「なのは……」 フェイトは心苦しさと同時に、不謹慎ながら喜びも感じずにはいれらなかった。 今のなのはは、あの頃のなのはだ。そのものだ。 管理局としての正義ではなく、次元世界を統べる秩序でもなく――ただ一人の人間としての想いを信じて戦っている。 迷い、悩み、それでも自分なりに考えて、傷付きながらも信じ続けて前進する。まるでヒーロー。 子供の頃から、その眩しい姿にずっと憧れていた。 組織は多くの人々を助けられるかもしれない。 でも、たった一人の為に全身全霊を賭けて救おうとする君が好き。 「つらい戦いだね。でも……頑張って」 やっぱり君には――自分の信じるままに飛ぶ、自由な空が良く似合う。 「クソ……ッ!」 放った魔力弾が再び障壁に弾かれるのを見て、ティアナは悪態を吐いた。 これが本来の実力の差なのか。 あっという間に戦況は一方へ傾いた。 なのはは強力なシールドを前方に展開し、先ほどと同じ方法で背後から誘導弾を連装ミサイルのように撃ちまくっている。 ただそれだけ。魔法の運用一つで、戦闘は一方的な展開となりつつあった。 ティアナの魔力弾はシールドを貫けず、弾速を驚異的な誘導性で補ったなのはの魔力弾は目標を執拗に追い詰める。 硬い盾と高い火力があれば、つまりはそれだけで戦闘は決する。 理不尽を嘆かずにはいられない理論ではあったが、ある種の真理でもあった。だから高町なのはは強いのだ。 それに、まさにこれこそがティアナの求める純粋なパワーでもある。 それを手に入れる為に、負けるわけにはいかない。 「クロスミラージュ、少し無理をさせるわよ」 《No problem.Let s Rock,Baby?(お気になさらず。派手にいきましょう)》 無機質な電子音声のクセに随分と小気味のよい言葉が返ってくる。 思いの他頼りがいのある返答に、思わずティアナは苦笑した。 「OK! 火星までぶっ飛ばしましょ――カートリッジ!!」 《Load cartridge.》 消耗した魔力を一時的にカートリッジで補う。 再び放たれた数発の魔力弾が見えた。 自動追尾の誘導性は単純な回避運動では振り切り辛い。無理な軌道変更を何度も繰り返してようやく成功させたと思えば、次が来る。 何度かの攻防でティアナはそれを理解していた。 効率はともかく、反撃に転じれるだけの効果的な方法が必要だ。 魔力を消耗し、弱点が露見する危険性もあるが、これしかない。 ティアナは一つの魔法を選択した。 「フェイク・シルエット――<デコイ>!」 ギリギリまで魔力弾を引き付け、回避に移る瞬間に幻術魔法を発動させる。 ついさっきまっで居た場所に、残像のように残された幻影のティアナへ向かって誘導弾が殺到した。 視認と自動追尾さえ誤らせる幻術を使った、戦闘機のような文字通りの囮(デコイ)だった。 一瞬の回避には効果的である。しかし、結局はその程度の効果だ。 本来の<フェイク・シルエット>は幻影を動かしたり、複数行使することで戦術的な効果すらも見込める魔法である。 ティアナにとって、この魔法は未だ習得出来ぬ不完全な魔法だった。 今のでそれを、なのはに見抜かれたかもしれない。 リスクは大きかった。だからこそ、見返りは最大限に活かす。 「うぉおおおおおおっ!!」 獣のように駆け、吼えながらティアナは空中のなのはを狙い撃った。 シールドに弾かれるのも構わず、とにかく攻撃の手を休めずに移動しながら、防御のカバーが無い側面へと回り込む。 なのはは冷静に観察し、察知していた。 その動きがフェイクであることを。 本命は、撃っていない左手に集束し続けている魔力だ。二段重ねの<チャージショット>の貫通力はシールドすらも射抜く可能性がある。 固定砲台と化していたなのはは、ようやく移動を開始した。 しかし、ティアナの命中精度と魔力弾の弾速は全速飛行であっても逃れ切れるものではない。 「捉えた!」 確信と共に、ティアナは左手に宿した魔力の暴走を解き放った。 雷鳴のような雄叫びを上げて、凶悪な銃火が炸裂する。スパークを撒き散らしながら、弾丸が展開された障壁に殺到した。 「<バリアバースト>!」 狙い済ましていたなのはは、まさにその瞬間仕掛けを発動させた。 バリア表面の魔力を集束して爆発させる。 子供の頃から技術向上し、バリア付近の対象を弾き飛ばす攻性防御魔法へ昇華した代物だったが、なのはは今、あえて対象を無差別に設定して実行した。 魔力弾の激突と同時に発動し、障壁を貫かれる前に、爆発により自分自身を弾き飛ばして距離を取る。 無茶苦茶だが、その思い切りの良さが回避を成功させた。 吹き飛びながらも空中で姿勢を安定させ、近くにあった<ヴィングロード>の足場に着地する。 そして、すぐさま<ショートバスター>による反撃を放った。 砲撃の隙間をティアナは駆け抜ける。 そう、ティアナは攻撃が失敗しても走り続けている。 なのはは彼女の走る足場の先を目で追い、その<ヴィングロード>が自分の元まで一本の道で繋がっていると知ると、内心で戦慄した。 まさか、計算通りか? 回避し、ここに着地することまで狙ってのことか――! 肯定するように、接近するティアナの両手には銃剣型のダガーモードになったクロスミラージュがあった。 なのはは感嘆せざるを得ない。なるほど、大したものだ。 「でも、終わりだよ。ティアナ!」 なのはは余裕を持ってシールドを展開し、背中に魔力スフィアを形成した。 ティアナには一瞬でも高機動を行う手段が無い。確かに、接近戦には絶好の位置に追い込んだが、タイミングが速すぎたのか、ただの駆け足では全くスピードが足りなかった。 間合いに到達する前に、迎撃は十分間に合う。 シールドは接近戦の持ち込み方次第でどうにかなるかもしれないが、そもそも誘導弾が放たれれば近づくことすら不可能だ。 僅かに間合いに届かぬ位置でなのはは魔法を完成させ、全てを終結させるべく解き放った。 数条の閃光がティアナに殺到する。 「――Slow down babe?」 眼前に迫る決定的な攻撃に対して、ティアナは不敵に笑い返して見せた。 「そいつは、早とちりってヤツよ!」 右手を突き出す。 カートリッジ、ロード。薬室に弾丸を込めるが如く。 《Gun Stinger》 銃声代わりの厳かな電子音声。魔力を集中させた銃剣の切っ先を前に突き出し、ティアナ自身の炸薬が点火された。 脚部に圧縮して溜めていた魔力を爆発させた反動で、無謀な突進は凶悪なまでの加速を得る。 次の瞬間、ティアナの体は前方へ弾け飛んだ。 「でぇやぁああああああーーーっ!!」 自らを弾丸と化した突撃。残像を残すほどの加速で<ウィングロード>を滑走し、飛来する魔力弾の隙間を一直線にすり抜けて、先端の刃がついになのはのシールドを捉えた。 激突のインパクトが周囲の空気を震わせ、更に続く力の拮抗が火花を散らす。 矛と盾がせめぎ合い、魔力で構成されながらも金属的な悲鳴を上げ続けた。 「すごいね、ティアナ! いつの間に、こんな魔法覚えたのっ!?」 絶対的な魔力差を埋めるティアナの突進力に顔を歪めながら、それでもなのはは感嘆を抱かずにはいられなかった。 戦いが始まって以来、ティアナはあらゆる予想を覆し続けている。 「魔法じゃありません! それに、あまり誇れる力じゃない……!」 渾身の力で魔力刃を障壁の内側へと押し込みながら、ティアナは自身の限界を悟られぬよう、歯を剥いて笑った。 冷や汗が滲む。この技は、あまり長い間パワーを放出し続けるものじゃない。あくまで一瞬の爆発力を得る為のものだ。 拮抗は長くは続かないだろう。 「これは……<悪魔>の力です!!」 無茶を承知で、空いている左手のクロスミラージュにカートリッジのロードを命じた。 激しい魔力放出を行う中、強引な方法で供給された魔力が痛みを伴って全身を駆け巡る。 マグマが血管を通り抜けるような錯覚を味わいながら、その勢いを全て右腕に注ぎ込んだ。銃口から伸びる魔力の刃が輝きを増す。 凶悪なその光は、ついにシールドを打ち破った。 しかし、それだけだ。 刃が障壁を貫通し、銃口が抜けて銃身の半分も食い込んだところで、ついに力尽きた。 ダガーの刃はなのはの胸元で僅かに届かず止まっている。もはやこれ以上の後押しは無理だ。 その結果にティアナは――笑った。 そして間髪入れずに吼える。 「クロスミラァァァージュッ!!」 《Point Blank》 撃発。 シールドを突破した銃口から、このほぼ零距離でダガーに蓄えていた魔力を利用した<チャージショット>がぶち込まれた。 力を溜めた銃身を槍のように突き刺し、そのまま発砲するまさに狂気の連撃(クレイジーコンボ) 実銃の放つマズルフラッシュに等しい魔力光の炸裂が指向性を持って前方に噴出し、直撃を受けたなのはは声も無く後方へと吹き飛んだ。 バリアジャケットのリボンの部分がバラバラに弾け飛び、確実なダメージを引き摺って、なのははたたらを踏みながら後退を止める。 ティアナ、もはや狩りに集中する獣のように、一片の油断も躊躇も無くただトドメを刺すべく追撃した。 「ぁ……っ、あっ、あ゛あっ、あああああああああああっ!!」 躍動する体から荒い呼吸音と共に漏れるこの恐ろしい声は何なのか。ティアナ自身さえ一瞬気付かなかった。 この一撃がティアナにとっても全身全霊を賭けた勝負であったことは間違いない。 賭けには勝った。だが多くのものを支払った。 一瞬の爆発力に全てをつぎ込み、これを逃せば元々平凡な魔力量しか持たない自分に持久戦は出来ない。 接近戦で全てを決める。 「墜ちてもらいます!!」 「……っ、そうも、いかないよ!」 焦点の合わないなのはの視線が、僅かに戸惑いを見せた後、素早く接近するティアナを捉えた。 ダガーの刃が十字に交差する。ハサミと同じ構えを取ったティアナはなのはの首を刈り取るように腕を突き出した。 交差の一点にレイジングハートを差し出し、なのはは辛うじてそれを受け止める。 《Stop fighting! It is your obligation,Cross Mirage.(戦闘中止しなさい。クロスミラージュ、アナタの責務です)》 デバイス同士が接触した瞬間、レイジングハートとクロスミラージュも意思を交わしていた。 過剰な戦闘継続と、相手の危険な精神状態を考慮したレイジングハートが冷静な命令を下す中、クロスミラージュは変わらぬ電子音声で答える。 《Sorry,My senior.My answer is……Fuck you!(申し訳ありません。私の答えはこうです……糞喰らえ!)》 予想外の、機械的な発声にそぐわない痛烈な返答だった。 レイジングハートに顔があったなら、きっと面食らっていたに違いない。クロスミラージュに手があったのなら、きっと中指を立てていただろうから。 主の意思も、デバイスの意思さえも相反し合った。 二人は激突を続ける。 体格的にも二人の筋力は大差無い。力比べを無駄と切り捨てたティアナは、素早く刃を引いて攻め方を変えた。 拳銃にナイフの生えたような通常の短剣とは使い勝手の違うそれを、驚くほど滑らかに振り回して、小さく、細かく斬りつけて来る。 射撃戦主体とは到底思えぬ巧みさであった。 なのはは冷や汗を浮かべながら、迫り来る剣閃をかろうじてデバイスで捌き続けた。 ティアナの攻撃が技術に裏づけされたものなら、なのはの防御は経験によって支えられている。 決して理の通った動きでは無く、無駄もあり、しかし長年戦い続けてきた経験の中にあるヴィータやシグナムを含む接近戦のエキスパートとの記憶が、迫る刃に対応するのだ。 全身を緊張させ、それでいてくつろいだ動きは、シビアな判断の連続である近接戦闘において理想的な態勢である。 「ビックリだな、ティアナってばどんどん隠し玉出すんだもん!」 「アナタに対して有効だから付け焼刃で振り回してるだけです! でも、今は私の出せる力は全て出して証明すると決めましたから!」 「なるほど! じゃあ、この勝負はわたしの負けかもねっ!」 ガギンッ、と鉄のぶつかり合う音を立て、再びデバイスは噛み合い、一瞬の拮抗が出来上がった。 互いの武器を境に、二人の視線が交差する。 「――ティアナを甘く見てたのは認めるよ。 でも、だったら尚更どうして? こんなに強いのに、ティアナはまだ力が欲しいの?」 「欲しいですね。例え悪魔に魂を売ってでも……<悪魔>を殺す為に!」 「そんな矛盾を持ってる時点で、間違ってるって気付かないの? そんな考えは、ティアナを不幸にする! 孤独にしちゃうんだよ!!」 「独りで戦う、誰も助けてくれなんて言ってない! どうしてアナタは私を止めるんですか!? 私はただの部下です! 別にアナタの10年来の友人でも、家族でもない! お節介程度の気持ちで、私の生き方まで干渉されたら、いい迷惑なんですよ!!」 もはやほとんど罵声のようなティアナの訴えが、なのはの心を揺るがした。 「わたしは……」 心が痛い。だが、こんな痛みなど自分勝手な感傷だ。 そうだ、結局どこまでいってもティアナにとって自分の言動は余計なお節介に他ならない。 それでも――ここで引き下がれない理由は何だ? 目の前の少女を、このまま独りで行かせたくないと思う、自分を突き動かすこの衝動は一体何なのか? 自分の心を表現出来る言葉を必死で探すなのはの頭とは別に、その胸に宿る熱い何かが一気に込み上げて、口から突き出した。 「――ティアナが、好きだから」 「え?」 一瞬、激しい力と意思の衝突が何処かに消え失せた。 呆けたようなティアナの顔と、無意識に出た自分の言葉を認めて、なのはは今や完全に納得した。 そうだ。これだ。 「初めて会った時、相棒を見捨てずに背負って走り続けるティアナの必死な顔を、カッコいいと思ったから」 つらつらと、これまでの迷いが嘘のように想いが言葉となって流れ出た。 「初めての訓練の時、ティアナの撃った弾に宿った魂の強さに、憧れたから」 教導官としての責務。 上司としての責務。 そんなもの、どうだっていい。 「初めてわたしの訓練に意見してくれた時、自分だけの決意を持つ真っ直ぐな眼を見て、もっと知りたいと思ったから」 高町なのはという一人の人間として付き合いたいと、思ったのだ。 「だから、ティアナ――今のアナタの姿がわたしには我慢出来ないの」 それは正しいのか、悪いのか。 そんな考えはもはや空の彼方へ捨て去って。なのはは今、一人の少女として、断固として言い切るのだった。 「そんな、身勝手な……っ」 「ゴメンね。フェイトちゃんやヴィータちゃんの時もそうだったけど、わたしって結構わがままなの」 絶句するティアナの前で、なのははあどけない笑みを浮かべて言った。 「そう言えば、わたしが勝った時の条件って言ってなかったね。 ティアナが勝ったら、うんと強くなるように訓練メニューを変更する。 わたしが勝ったら――今度こそ<なのはさん>って呼んでもらうよ。親しみを込めてね!」 名案だとばかりに、得意げに言うなのはの顔はどう見ても管理局所属の一等空尉の顔ではなく、年相応の人懐っこい少女の笑顔であった。 思わず釣られて浮かべそうになった苦笑を噛み殺して、ティアナは鋭く睨みつける。 「だったら、まずは勝ってからにしてもらいましょうか!」 クロスミラージュの銃身とレイジングハートの持ち手が交差していた一点に向けて、膝を蹴り上げる。 全く想定していなかった方向からの衝撃に、力の拮抗は崩れ、二つのデバイスは弾けるように離れ合った。 両手は宙を舞い、互いに無防備な懐を晒した二人だったが、その一瞬を想定していたティアナだけが一手早く動いた。 下腹に向けてダガーの刃を突き入れる。擬似的にとはいえ人を刺す行為に一瞬の躊躇もない。 バリアジャケット越しに感じる手応え。ティアナは何故か取り返しのつかないことをしてしまったような絶望を感じながら、必勝の瞬間にほくそ笑む。 なのはの腕が、ティアナの腕を掴んだ。 「ジャケットパージ!!」 そう叫んだなのはの言葉の意味が一瞬理解出来ない。 だが、何か答えを出す前にティアナの体は突然の衝撃に後方へ弾き飛ばされた。 上着の部分を構成する魔力を瞬間的に解放することで周囲に衝撃波を放ったこの<ジャケットパージ>は、かつて親友のフェイトが使用していたものだった。 全く予想していなかった反撃に吹き飛ばされるティアナ。揺れる視界で、なのはの射撃体勢を捉える。 必死にクロスミラージュの銃口を突き付けた。 「く……っ!」 「レイジングハート!」 互いのデバイスの先端に灯る魔力の光。交差する視線。狙いは完璧。 放たれる、今。 「シュートォ!!」 「Fire!!」 二色の魔力光がすれ違い、互いの標的を同時に直撃した。 奇しくも、二人とってこの戦いの中で初めてクリーンヒットを相手に与えていた。 「ティア! なのはさん!?」 意識を刈り取るほどの互いの一撃に吹き飛ばされ、<ウィングロード>の足場から落ちていく二人を見て、それまで呆然としているだけだったスバルが我に返る。 深くなど考えない。二人を救う為、魔力を振り絞って更に<ウィングロード>を形成し、伸ばす。 二人の間を中心に一本の青い道が伸び、落下する二人の体を受け止めた。 スバルが安堵のため息を吐く中、二人は倒れ伏したまま動かない。 モニターには倒れたままのなのはとティアナが映っている。 息を呑むようなその場の静寂が、ヴィータの元にまで伝わってきていた。 「……信じられねえ。リミッター付きとはいえ、相手はあのなのはだぞ」 「先に言うなよ。正直、俺も信じられないってのが本音さ」 この時ばかりはダンテも茶化す事無く、神妙な様子でヴィータの言葉に同意していた。 ティアナと最後に会って約三年。 確かに彼女は魔導師として鍛える為の施設に入り、その為の日々を過ごしてきた。 だが、その日々を経たとしてもわずか三年という時間であそこまで人は変わるものなのか? 機動六課に入って以来の付き合いでしかないヴィータにとっては、この変貌はより衝撃的であった。 「努力だとか詰め込みの自主錬だとかでどうにかなるレベルじゃねえぞ。 特に、最後のあの銃剣使った突撃。瞬間高速移動とか肉体強化とか、完全にスバルやエリオみたいな近接戦型魔導師のスキルじゃねーか」 感嘆というよりも畏怖するような響きで呟き、ヴィータは傍らのダンテを睨み上げた。 「……おまけに、どっかで見た技だったな」 初めて共闘した夜、目の前の男が使った技をヴィータは鮮明に覚えていた。 突進と刺突を合わせた一撃。だが、威力や効果はそんな単純なものではなかった。まさに絶大だ。 爆発的な初動は、自分やシグナムでさえ反応することが難しいだろう。あれは一種の技だった。ダンテは自然体で近接戦型魔導師のスキルを備えている。 ティアナの使った技はまさにそれをベースに発展したものと言ってよかった。 「確かに、アイツには何度か見せたことがあるがね。だが、分かるだろ? 見よう見真似で出来るもんじゃない。おまけにアイツには向いてないんだ」 「……そりゃそうだよな。確かにアイツの体つきは格闘向けじゃねえ。けど、だったらますます解せねえだろうが」 言いくるめられ、渋々頷きながらもヴィータは合点のいかない表情を見せた。 「近接技の類は単純な魔法の習得で出来るもんじゃねえ。 機動力強化や筋力強化にしても、基になる部分の適応、その為の肉体改造――どれも一朝一夕で出来るもんじゃねぇんだ。 こりゃ、努力とか才能の問題ですらねーぞ。時間的に無理! ティアナの野郎、まさかヤベー薬でもやってんじゃねえだろな?」 ヴィータはさして考えもせず冗談染みた呟きを漏らしたが、ダンテの表情が僅かに揺れたのを彼女は気付かなかった。 そうしているうちに、モニターで変化が起こる。状況が動き出したのだ。 ヴィータは再びモニターに釘付けになり、戦いの結末に意識を集中させた。 その傍ら。ダンテはモニターから眼を離し、肉眼では見えない遠くの訓練場での戦いを見据える。 「……あのじゃじゃ馬、まさかここまで踏み込んでたとはな」 笑い飛ばしてみようとして失敗し、苦々しいものがダンテの口元に浮かんでいた。 「深入りするなよ、ティア。お前は<人間>なんだ――」 ダンテの言葉は風に溶け、遠いティアナの下へ流れていく。 状況を鮮明に映すモニターの中、ついに二人の戦いは終着へ向かおうとしていた。「くっ……ぁあ……っ」 力を振り絞り、なのはは両手を着いて上半身を持ち上げた。 腹のど真ん中にはティアナの魔力弾の直撃を受けた跡がしっかりと刻み込まれている。まったく、あの態勢で恐ろしい命中率だ。 「久しぶり、かな……こんなにキツイの」 苦笑しながら力の入らない両足を無理矢理立たせる。 ダメージは予想以上だった。 近接状態から逃れる為とはいえ、<ジャケットパージ>は発動と同時に無防備な状態を晒す危険な方法である。 上着部分を失ったことで大幅に防御力の落ちたバリアジャケットは、ティアナの魔力弾の貫通力を緩和し切れなかった。 模擬戦でここまで必死になったのは、本気のシグナムとの一戦以来だ。 「ティアナは……」 なのはは自分の立つ<ウィングロード>が一直線に伸びる先を見つめた。 ティアナは倒れたままだ。意識は戻っているらしく、両脚を震わせ、両腕を動かしながらもがいているが、立ち上がれていない。 ダメージはティアナの方が深刻だった。 砲撃魔導師とも呼ばれるなのはの<ショートバスター>の直撃は、それほどまでに脅威なのだ。 ティアナは言うことを聞かない自分の体に絶望した。 「あたしが――負けるの?」 悔しさと共に、弱音とも取れる言葉が漏れる。 それを見下ろすなのはは、手を差し伸べることもなく、ただ強く言い捨てた。 「どうしたの? それで終わりなの?」 言葉とは裏腹に、嘲りなど欠片も無く、叱責するような厳しさでなのはは告げる。 「立ちなさい! ティアナ、アナタの力はそんなものじゃないはずだよ?」 「うる、さい……っ!」 なのはの言葉にティアナの頭が一瞬で煮えくり返った。 湧き上がってきた怒りを両脚に注ぎ込み、力として立ち上がる。ここで這い続けることは、何よりも許せない屈辱だ。 「アンタなんかに、あたしの何が分かるってのよぉぉ!!」 折れた牙を剥きながら立ち上がった。 ティアナの仮面、もはや跡形も無く崩れ落ち、無残なまでの感情が剥き出しになっている。 怒り、妬み、焦り、悔い、憎しみ――ハッキリとした視線。だが、なのははそこから眼を背けない。 「分からない。でも、わたしはアナタを止めなきゃならない。例え、アナタを傷つけることになっても」 幾度目かの対峙。 しかし、二人は言葉も交わさずに確信し合った。 次が、最後だ。 「……クロスミラージュ」 「……レイジングハート」 下向きに構えられたお互いのデバイスが、お互いの主の意のままにカートリッジをロードした。 供給される一発分の魔力。 そう、次の一発で決める。 奇妙な沈黙が落ちた。 嵐の前の静けさが最も表現として合っている。更に適する状況を表すならば『銃を構える寸前で止まった決闘の瞬間』が最も正しい。 自分が最後まで信じる射撃魔法を武器に、二人は同じ盤上で賭けに出ることを同意していた。 張り詰めた空気が、限界に達する。 ティアナとなのはが、自らのデバイスを相手に向けて振り上げた。 一挙動、なのはが遅い。 疲れ果てて尚、ティアナの抜き撃ちは神速であった。クロスミラージュのガンサイトがなのはの眉間を捉え、ティアナは躊躇無く弾丸を解き放つ。 放たれた魔力弾は、その音速に達する速さで一直線に走り――なのはの手の中に吸い込まれた。 「あ――」 目を見開き、驚愕に支配されたティアナに許された発声はそれだけだった。 待ち構えていたかのように、発射と同時に動いたなのはの空手が飛来する魔力弾を防護フィールドで包み込み、受け止めていた。 虚しく四散する魔力の残滓が舞う中、瞬き一つしないなのはの眼光がティアナを捉えている。 右手のレイジングハートが、ティアナより一瞬遅れてその穂先を標的に向けた。 「シュート」 囁き、念じる。 轟音と共に砲撃が放たれ、なのはの最速砲撃である<ショートバスター>が為す術も無いティアナを貫いた。 魔力の奔流が過ぎた後、左半身のバリアジャケットを消失させ、ティアナが力なく膝を着いた。 もはや、戦いを続けられはしない。 戦闘は終了したのだ。なのはの勝利によって。 「ティアナ……」 僅かにふらつく足取りを叱咤して、なのはは今にも倒れそうなティアナの下へ歩み寄った。 ギリギリの勝負だった。元より、正面から撃ち合いなどして自分に勝機があるなど思っていない。 なのはがティアナの射撃を防げたのは、勘と、運と、何よりもその判断力によるものだった。 散々自身の魔力弾を撃ち込みながらもそれに耐えてきた自分のバリアジャケットをティアナは警戒していたはずだ。 狙うならば、一番ダイレクトにダメージを送り込める頭部を狙って意識を狩りに来る――そう踏んで、ティアナの射撃を誘導した。 後は自身の持ち得る感覚やセンサー全てを頭に集中して待ち構え、そしてなのはは賭けに勝ったのだ。 「わたしの、勝ちだよ」 ティアナの目の前で、なのははそう宣言した。 それを聞き、持ち上げた顔の中。ティアナはまだ笑みを浮かべていた。 「まだ決着なんて……ついてませんよ、教導官。私の意志は折れていない」 「何言ってるの、ティアナはもう戦えない!」 「なら、待ちます。このまま何もしないなら、少しずつ呼吸を整えて、体力を回復させて、動けるようになったらもう一回襲い掛かります」 「そんなこと……っ!」 「そんな面倒な真似をさせたくなかったら、しっかり決着を付けてください。高町教導官」 ティアナの言葉に、なのは息を呑んだ。 ドドメを刺せ――ティアナはそう言っている。 「……降参して、ティアナ」 「言いません。もうダメです、その段階は過ぎました。私はもう決めましたから」 「ティアナ、意地を張らずに……っ!」 「その気遣いは、一体何の為のものなんですか!?」 倒れる寸前とは思えないティアナの一喝が響いた。 彼女の瞳にだけは、いまだに激しい炎が燃え続けている。 「高町教導官! アナタは卑怯だ、そうやっていつも深く踏み込む決断を避ける! 優しさだと思ってるそれは、壁なんです! 私はアナタの笑顔には惑わされない! 私の本気に対して、本気で応えようという気がないなら最初から関わらないで下さい! 今は優しさなんて必要ないんですよ!!」 息も荒く、それでもティアナは血を吐き出すように言葉を投げつけた。 その全てがなのはの心を抉る。 ティアナを含めて、これまで多くの訓練生に教えてきた全てに自信が無くなっていく。 間違っていたとは思えない。でも――確かにわたしは、壁を作っていたのではないか。 「……さっき言ったことは嘘ですか?」 今度は静かに、ティアナが尋ねた。 「本当なら撃って下さい。 私は本気だから止まりません。本気なら止めて下さい。撃って下さい。この戦いの答えを決めて下さい――<なのはさん>」 なのははカッと眼を見開いた。 心が痛み続ける。苦悩が巡り続ける。だが今、迷いだけは抱いてはならない。 何かを堪えるように引き締めた口元。弱弱しくも立ち上がったティアナを睨み据え、レイジングハートを構えた。 「――全力全開でいくよ、ティアナ」 「望むところです」 コッキング音と共に二発のカートリッジがロードされる。 十二分な溜めによって、最大級の魔力が強大なスフィアを形成、凶悪な光を胎動させた。 その圧倒的な存在を前に、射線上のティアナはむしろ穏やかな表情すら浮かべていた。 今、この戦いから始まった全てが終わる。 「<ディバインバスター・エクステンション>!」 なのはの叫び、あまりに悲痛に響き。 「シュゥゥゥーーートォォッ!!」 渾身の力と想いを込めて、なのはは泣き叫ぶように絶叫した。 高密度で圧縮された魔力が一瞬でティアナの体とその意識を飲み込む。 多重構造物を貫通するほどの対物集束砲は光の帯を空の彼方まで届かせ、その凶悪な輝き知ら示した後、ゆっくりと消えていった。 斜線上にあったただ一人の対象物であるティアナは、バリアジャケットを跡形も無くに吹き飛ばされ、訓練着の状態に戻っていた。 意識などあの光に全て焼き尽くされ、そのまま崩れ落ちる。 もはや、立ち上がることはない。目を覚ますのに丸一日は必要だろう。 今度こそ、戦いは終わった。 勝者となったなのはは、倒れたティアナを呆然と見下ろしていたが、やがて踵を返してフラフラと歩き始めた。 「模擬戦はこれまで。二人とも、撃墜されて……」 誰に告げているのか分からない呟きは、そのうちすすり泣くような声に変わっていく。 数歩進んだところで力なく膝を着き、両手で顔を覆った。 様子を見ていたフェイトが飛び出し、いつの間にかバインドの解かれていたスバルが弾けるように駆け出した。 その戦闘を傍観していた者全てが、慌てて行動を始める。このあまりに痛ましい結末に。 もう、見ていられない。 ティアナ対なのは、決着――。 to be continued…> <悪魔狩人の武器博物館> 《剣》リベリオン ダンテの愛用する剣。父から譲り受けたもの。 長身のダンテ自身に匹敵する程の長さと肉厚の刀身を持つ巨大な剣。悪魔の頭蓋骨を連想させる装飾が特徴。材質不明。 頑強で切れ味もあるが、それ自体は単なる剣に過ぎない。 その真の特性は、ダンテの力を唯一完全に発揮出来る媒介であるという点である。 並の得物ならば伝播させるだけで崩れ落ちる真紅の魔力を刀身に宿し、更に強力な攻撃として具現化させることが可能。 ダンテの魔力を帯び続けていたせいか、彼の意思一つで手元に戻ってくる特性も兼ね備えている。 また、武器としてだけではなく、ダンテの<真の力>を発揮する為の鍵としても在るらしいのだが――? 髑髏の装飾は、ダンテの状態に応じて形状が変化するらしい。 前へ 目次へ 次へ
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マクロスなのは 第7話『計画』←この前の話 『マクロスなのは』第8話「新たな翼たち」 「ここが校舎だ」 食堂から出てミシェルに案内された場所は所内にある比較的古いコンクリート打ち付けの建物だった。 表札もおそらく昔の名前、『技術開発研究所 化学部門』となっている。 「案外古い建物を使ってるんだな」 アルトの呟きに、玄関の階段に足をかけたミシェルが答える。 「ここにはまだ予算があまり割かれてないんだ。まだ訓練を始めて2週間だからな」 「そんなものか」 アルトは階段に足を掛けながら後ろを歩く生徒達を流し見る。 昼食の時に話を聞いた所、大多数がリンカーコア出力がクラスBの空戦魔導士だった者達で、一様に理系―――――特に工学を学んだ者で構成されていた。(そのためか女子生徒は1人のようだ) やはりバルキリーに乗るためには自分の乗っている物がなぜ飛ぶのか、そういう事がわからなければ緊急時に対応できない。そのことを管理局も理解しているらしかった。 玄関をくぐると、ミッドチルダには珍しい褐色の肌をした男と鉢合わせした。 「よう、ミシェル。・・・・・・ん?そちらの2人は?」 「ああ。さっきのリニアレールの事件で手伝ってもらった、機動六課の高町なのは一等空尉に、〝アルト姫〟だ」 アルトは聞くと同時にこの金髪のクソ野郎をぶん殴ってやろうかと思ったが、彼にはそれでわかったらしい。 「ああ、あなたが。噂は聞いています。私は第51次超長距離移民船団『マクロス・ギャラクシー』所属、新・統合軍のミラード・ウィラン大尉です」 教官をしていて今の階級は三等空佐ですが。とつけ加える。 「こんにちは、高町なのはです」 笑顔で応対するなのは。一方、『マクロス〝ギャラクシー〟』と聞いたアルトは一瞬身構えたが、彼の友好的な顔からは敵意はまったく感じられなかったためそのまま会釈だけで簡単に流した。 「こんにちは。・・・・・・しかし噂通りお2人とも美しい女(ひと)だ。・・・・・・ああ、そういえばアルトさんは報道でお見受けした時もそうでしたが、普段から〝男装〟をされているんですね。それでも内に秘めた美しさが垣間見えるようでよく似合っておいでですよ」 まったく悪意のないウィランの自然な言葉に、後ろから生徒達のクスクス笑いが聞こえる。 「だ、誰が男装だ!!誰が!?」 アルトは全力で否定した。舞台以外で性別を間違えられるなど、自身のアイデンティティーに関わる。 ウィランもこの美青年の声にようやく気づいたようだ。 「え?・・・・・・あ、いや失礼。ミシェルの話から早乙女アルトは女性だとばかり―――――」 どうやらさっきのスパイス、そしてこれはミシェルの差し金だったらしい。 「ミ・ハ・エ・ル、貴様ぁ!!」 激昂するアルトに 「俺に勝ったら男の子って認めてやるよ。〝姫〟」 と涼しい顔。 突然険悪になった2人を生徒やウィランはハラハラと、なのはは苦笑しながら見ていた。 (*) 「それでは当初の予定通り、午後はシュミレーターによる実習だ」 ミシェルが生徒を前に宣言する。 彼の後ろには縦2メートル、横5メートル、奥行き3メートル程の箱がある。どうやらあれがシュミレーターらしい。中にはバルキリーの操縦席がある。 「内容は会敵、戦闘となっている。だが、これで5分も持たないような奴は―――――」 ウィランが鋭い視線で生徒達を威嚇した。 ミシェルが時たま見せる眼光にもスナイパーであるためか見られたものを竦み上げさせる力があったが、所詮まだ高校生。40以上で、下っ端からの叩き上げという彼とは場数が違った。 そうして生徒の1人がデバイスを起動してバリアジャケットに換裝する。それは紛れもなく軍用EXギアだった。どうやら『メサイア』とは腹違いの兄弟らしい。 着なれているらしく、シュミレーターに乗り込む彼の動きに無駄はなかった。どうやら訓練を始めてから2週間というのは本当らしい。 シュミレーターが稼動すると他の生徒達はディスプレイの前に集まる。どうやらシュミレーターとこの画面とはリンクしており、観戦ができるようだった。 画面に浮かぶ自機、VF-0はクラナガン上空を飛ぶ。そこに現れたのは50機を優に越えるであろうガジェットⅡ型の大編隊。 本来の生身の戦闘ではとても勝てないであろう彼らに向かってVF-0は獰猛果敢に突入する。 アルトはこの戦いを見てこの訓練は始まったばかりだと感じた。可変の使い方を心得ていない。 可変という特殊機構をもつVFシリーズは戦場を選ばぬ全領域の汎用性がある。そのためこの機構を使いこなしているかで即、技量がわかる。 可変の使い方の基本としては、ファイターは高速度と高機動を生かして敵中突破または距離をとるために。ガウォークは戦闘ヘリのような小回りを生かしての戦い。バトロイドは腕という名の旋回砲塔による全方位攻撃や近接戦闘に。 しかし元空戦魔導士だった彼らはファイター又はバトロイド形態に固まってしまい、ガウォークを中間とする流れるような運用ができていなかった。しかしそれでも頑張っていられるのは魔導士時代の実戦経験と、戦闘のノウハウがあることが大きいだろう。 これがある者は例えバルキリーの操縦カリキュラムをすべて履修したが、実戦経験がないという者に比べても差は歴然である。 これのない者は戦場では空気だけで押しつぶされてしまい、実力の半分も出せない。対してある者は冷静に事態を見つめることができ、なおかつ経験を元に独創的な戦法を思いつくことができる。 さらにここの1期生達は元は優秀な魔導士だったらしい。ただ、ガジェットを相手にするにはリンカーコアの出力が低かったため戦力外通知され、ここに引っこ抜かれたという。 そのため1期生は戦闘技術なら実戦レベルであり、バルキリーに慣れさえすれば、『バジュラ本星突入作戦』に投入された緊急徴用の新人パイロットより十二分に戦力になりそうだった。 生徒の最後の1人が敵の猛追を受けて撃墜で終わり、さてどうするのだろう?と遠巻きに観察していると、ミシェルがこちらに来て言う。 「なのはちゃんもやってみる?」 「へ? わたし?」 ミシェルの突然の誘いに、彼女を尊敬しているという女子生徒にアドバイスをしていたなのははキョトンとする。 「そう。滅多にやれないと思うよ」 この誘いにしばし迷っていた彼女だが、周囲の期待のこもった空気にのせられ、承諾した。 「あ、でもわたしEXギアがないから出来ないんじゃ―――――」 「大丈夫。こっちで用意するよ。なのはちゃんのデバイス・・・・・・そう、レイジングハートをちょっと貸して」 言われたなのはは胸元にある赤い水晶のような石、レイジングハートをミシェルに手渡す。 彼はそれを端末に置くと、パネルを操作していく。 「・・・・・・ああ、『三重(トリ)フラクタル式圧縮法』か。ずいぶん洒落たの使ってるね。・・・・・・それに最終形態時の常時魔力消費(バリアジャケットや各種装備を維持するのに必要な魔力)率が15%って結構無茶するね・・・・・・」 なのははミシェルの一連のセリフに驚いたようだった。 「そんなにすごいことなのか?」 なのははアルトの問いに頷くと、理由を説明した。 『三重フラクタル式圧縮法』を使えば、普通のデバイス用プログラム言語の約3分の1の容量で同じことができる。しかし通常のデバイスマスターでは扱えないし、それであることすら看破できない代物であった。 しかしミシェルはそれを斜め読みしただけで解読しているようだったからだ。 「ミシェル君にはわかるの?」 「まぁね。姫にもわかるはずだぞ」 「はぁ?ミシェル、俺はガッコ(学校)で習ったプログラム言語しか知らん―――――」 「じゃあ見てみろよ。ほれ」 ミシェルは開いていたホロディスプレイの端をこちらに向かって〝ツン〟と指で突き放す。 (仕方ないな・・・・・・) 俺はスライドしてきたホロディスプレイを手で掴んで止め、投げやりに黙読を始めた。 もし現代のプログラマーがパッと見ることがあれば、見た目数字とアルファベットがランダムに配置されていて、なにか特殊な機械語だと思うかもしれない。 しかしアルトにはすぐに見当がついた。中学生時代、人類が生み出したC言語などを全て極めた後でようやく習ったプログラム言語――――― アルトは猛然とミシェルに駆け寄ると、画面を指差して叫んだ。 「おい!こいつは紛れも無く〝OTM(オーバー・テクノロジー・オブ・マクロス)〟じゃねぇか!?」 そう、これはOT(オーバー・テクノロジー)を有機的に運用するのに最適化されたSDF-01マクロス由来のプログラム言語だった。 「ああ。そうだな。わかるっていったろ?」 「だが何で―――――!」 こいつらがこれを知っている?というセリフを直前で飲み込むアルトだが、ミシェルは 「さぁな」 と肩をすくめて見せただけだった。 そして彼は顔にハテナを浮かべる生徒やなのはを見て当初の目的を思い出したのか端末に操作を加え始めた。 「えーと・・・・・・ここを繋いで・・・・・・これをペーストして・・・・・・第125項を第39項で繰り返す・・・・・・よし、これでIFS(最初にバリアジャケットのイメージデータを作成するシステム)に繋がるはずだ。これからバリアジャケットのイメージデータを送るから、待機してもらってて」 ミシェルは自身の端末を操作しながら、なのはに指示を出す。 「わかった。レイジングハート、お願い」 『Yes,My master. IFS(Image・Feedback・System) connecting ・・・・・・complete. All the time.(はい、マスター。IFSに接続中・・・・・・完了。いつでもどうぞ)』 「じゃあ、始めるよ」 ミシェルは言うが、変化はほとんどない。レイジングハートが数度瞬いたぐらいだ。そして不意に端末を畳むと、レイジングハートをなのはに返した。 「終わったよ。着替えてみて」 なのはは頷くと、その手に握る宝石に願った。 アルトは手で隠すように眩い桜色の光を避ける。するとそこから光臨してきたのは、いつもの白いバリアジャケットではなく、EXギアを着たなのはの姿であった。 しかし――――― 「これが・・・・・・うわっ」 予想以上の動きに大きくふらふらする。そしてバランスをとろうとして動かすとさらにバランスを崩し―――――と事態をどんどん悪化させていく。 「動かないで」 ミシェルが落ち着いた声でそう彼女に釘を刺すと、応援に来たアルトと共にそれを制していった。人間焦った時動かす場所など決まっているものだ。アルトやミシェルのような熟練者であればEXギアを生身でも制止することは可能だった。 「ふぅ・・・・・・トレース(真似)する動きは最低の1.2倍になってるけど、動く時には気をつけて。もし危ないと思ったら体は動かさず、いっぺん止まること。バランサーのおかげでどんな姿勢でも転倒することはないし、なのはちゃんが動かなきゃコイツは動けないから。OK?」 「う、うん・・・・・・」 彼女は素直に従い、ミシェルにエスコートされながらゆっくりシュミレーターに乗り込む。そして簡単な操縦機器の説明を受けるとシュミレーターを稼動させた。 『わぁーすごい!』 なのはの邪気のない声がスピーカーから届く。 たとえその身1つで飛べるとしても、やはり飛行機のパイロットの席に座る感触はまた格別である。 アルトもEXギアで飛ぶのと同じかそれ以上にバルキリーで飛ぶことを楽しんでいるので、なのはの気持ちはよくわかった。 「それじゃなのはちゃん、操縦の説明は―――――いらないみたいだね」 ミシェルはそう言うと、曲芸飛行をはじめたVF-0を見やった。 縦宙返りをして頂点に来るや360度ロール。再びループを継続すると、元いた場所に戻る。 そしてそこで鋭くターンすると、先ほどループした中心を貫いた。 その航跡が〝ハートを貫く矢〟に見えたのはアルトだけではあるまい。 なのははこの短時間でVF-0を乗りこなしたようだ。 その後も捻り込み、コブラなど曲芸を披露していった。 『うん、いい機体!』 なのはは水平飛行しながら足のペダルに直結された可変ノズルを操作して機体を揺すった。 「なのはちゃん、十分出来そうだね」 『うん。戦闘機の空戦機動ならみっちり〝練習〟したから』 それを聞いたミシェルがニヤリと微笑む。 「それじゃうちの生徒と同じ難度でやってみる?」 『うん!お願い!でも邪魔だからコンピューター補助全部切ってマニュアルにして』 「え?でもそれじゃ機体制御が難しくなるし、限界性能が出ちゃうからG(重力加速度)で気絶しちゃうかもしれないよ?」 しかしなのははカメラ目線になると、ウィンク。 『お願い』 と繰り返した。 「・・・・・・わかったよ。それじゃ、お手並み拝見」 ミシェルは肩をすくめて言うと機体の設定をいじり、訓練プログラムを作動させた。 出現するガジェットの大編隊。 なのはの操縦するVF-0はファイターで単身敵に向かっていく。その間チャフ(レーダー撹乱幕)とフレアを連続発射してあらかじめロックをかわす。 そしてすれ違った時には敵のうち数機が破片になっていた。 『〝LOMAC(LOCK ON MODERN AIR COMBAT。第97管理外世界に存在するフライトシュミレーション)〟で培った私の技術、今ここに見参!』 神技であった。 突然ピッチアップしたかと思えばそのまま後転。機首を元来た方に向けると、敵をマルチロック。続いてマイクロミサイルを斉射し、まったく回避動作に入っていなかったガジェット数機を葬った。 続いて追ってきたガジェットになのはは機首を上にしてスラストレバー(エンジン出力調整レバー)を絞る。すると機体は失速するが、なのははそこから可変ノズルを不規則に振ってハチャメチャにキリモミ落下を始めた。 これに似た機動は第97管理外世界ではフランカーシリーズの最新鋭戦闘機だけができる曲芸だが、VF-0でも潜在能力として出来た。 また可変ノズルなどの機構やOTM、そして操縦の完全マニュアル化によってそれら戦闘機より鋭く、速く行え、この機動中も制御が利くので、複雑な軌道なため狙いがつけられず棒立ちのガジェットを次々ほふっていった。 開始1分でガジェットを10機以上葬ったなのはのVF-0はその後もファイターしか使わない。いや、EXギアシステムが満足に使えないため、それをトレースするバトロイド、ガウォークなど使えない。 そのため遂にはミサイル、弾薬が尽き、戦闘空域から離脱する前に無限に出てくる敵の損害覚悟の包囲攻撃にさらされた。 「まだまだ!」 なのはは機体を180度ロール。続いて主観的な上昇をかけて急降下。いわゆる『スプリットS』を実行し、下界のビル群に突入した。 ガジェットも彼女を追わんとそこへの突入を敢行する。 「さぁ、どこまで着いてこられるかな!」 彼女は乱立するビルの間を音速で飛翔する。 本当にやったらビルのガラスが割れてその中の人や道路を歩いている人が大変なことになるが、なのははまったく気にしていないようだ。 秒速数百メートル単位で迫るビルという名の障害物を絶妙な機動で縫っていくなのは。 そんな魔のチキンレースにガジェットは更に10機ほどがビルにぶつかって散った。 しかし目前のビル群がとうせんぼ。正に袋のネズミになってしまったなのはに上空待機していたガジェットが大量に急降下を仕掛けてきた。 万策尽きたらしい彼女はスラストレバー全開で敵に特攻。数機を相討ちにするが、自らは激突寸前にイジェクト(脱出)して生き延びるという狡猾さを見せた。 「ふぇ~、やっぱり難しいよ~ぅ」 などと〝可愛く〟言いながらシュミレーターから出てくる。しかしこの20分で築き上げた撃墜数は1期生を余裕で上回る62機を叩き出していた。ちなみにこれには、ビルに激突して散った機は含まれていない。 おそらく実戦なら脱出後、生身でさらに80機近くを落とすだろう。 (さすがは管理局の白い悪魔・・・・・・) この時全ての人が同じ思いを共有していたという。 (*) 「さて、アルト姫。ここで生徒達にお手本を見せてくれるかな?」 なのはの奮戦を見て血のたぎっていたアルトはすぐさま応じ、メサイアを着込む。そしてシュミレーターから降りたなのはの、 「頑張って!」 と言うエールを背中に受けながらシュミレーターに乗り込んだ。 ハッチが閉じ、コックピットの機器に光が灯っていく。 操縦系統はEX(エクステンダー)ギアシステムを採用したためかVF-25と相違ない。アルトは自らの技量を過信するわけではないが、いくら旧式VF-0のスペックでも、ガジェットごときに落とされるとは思えなかった。 (*) シュミレーター外 なのははミシェルがシュミレーターのコントロールパネルに操作を加えるのを見逃さなかった。 「ミシェル君、なにをしたの?」 なのははそう言いつつミシェルが操作していたコントロールパネルの『難易度調整』と書かれたダイヤルを見た。ダイヤルのメーターはMAX(最大)を示している。 「普通の難易度じゃ、あいつにゃすぐクリアされちまうからな。あの高慢チキな鼻っ柱をへし折るにはこれぐらいで丁度いいんだよ」 その難易度はなのはや生徒達よりも8段階以上、上の設定だ。なのははシュミレーターの前で静かに合掌した。 (*) 「おいおい、ミシェル!これはなんなんだぁぁぁ!?」 アルトは迫るHMM(ハイ・マニューバ・ミサイル)をチャフ、フレアに機動を織り交ぜて必死に回避し、EXギア『メサイア』とシュミレーターの発生する擬似的なGに喘ぎながら通信機に怒鳴る。 後方にはライトブルーの機体が3機。機種はアルト達の世界でも最新鋭の無人戦闘機QF4000/AIF-7F「ゴースト」だ。 このゴーストは現在、新・統合軍の主力無人戦闘機だ。 有人機と対決した場合、高コスト機体であるAVF型(VF-19やVF-22)であっても1対5のキルレシオ(つまり、ゴーストが1機落とされる間に5機のAVFが撃墜されているということ)を誇り、VF-25で初めてタメが張れるという恐ろしい機体だった。 『あれ?生徒達の前で恥をかくのかな?』 それだけ言って通信は切られた。 「くっそ!覚えてろよミシェル!うおぉぉーーー!!」 アルトは持てる技術を総動員し、旧式VF-0で現役ゴーストに挑んだ。 (*) ゴーストは宇宙空間や大気圏でのいわゆる〝空中戦〟に特化しているため、このまま敵のフィールドである空中にいたらタコ殴りになると急降下。 1機を市街地のビル群に誘い込み、バルキリーの最大の特徴であり、得意であるバトロイドやガウォークなどで市街地機動戦を展開。罠にはめてガンポッドで見事撃墜した。 しかし残る2機にミサイルを雨あられと降らされ、袋叩きに会うこととなった。 「なめんなぁ!」 アルトはアフターバーナーも全開に急上昇を掛ける。 それによって空間制圧的に放たれていたミサイル達は飢えた狂犬のように従来の軌道を捨て、そこに集中する。 それを見越していたアルトはその瞬間ガンポッド、ミサイルランチャーなど全装備をパージしてデコイ(囮)とし、その弾幕をなんとかくぐり抜けた。そして間髪入れずにバトロイドへと可変すると、目前にいたゴーストに殴りかかった。 PPBの輝きも無い無骨な拳は見事主翼を捕らえてそれを吹き飛ばし、軌道が不安定になったゴーストを残った腕で掴むと、主機(エンジン)と武器を殴って全て停止させ、ミサイルランチャーからミサイルを1発拝借した。 もはや翼を文字通りもがれて鉄くずとなったゴーストだが、まだ利用価値がある。 バトロイドとなったことで急速に遅くなったVF-0に、残った最後のゴーストが接近掛けつつミサイルを放ってくる。その数、10以上。 そこでアルトは鉄くず同然のゴーストをミサイルに向かって投げつける。そして腕のみを展開したファイターに可変したVF-0は最加速して投げたゴーストに追いつくと、手に握っていたミサイルをそのゴーストに投げつけた。 直後に襲う衝撃。 ミサイルとゴーストの誘爆で大量の熱量と破片、そして衝撃波が放たれる。そして向かってきていたミサイル達はその目的を果たす前に、VF-0に重なるように出現した熱源に誘われて破片にぶつかったり、爆風の乱流で他のミサイルにぶつかったりとそれぞれの理由で自爆した。 その代償はVF-0にも降りかかる。VF-25であればファイターでも転換装甲が使えるため何とかなったはずの破片だが、スペックが完全に古いままらしいVF-0には多数の破片が弾丸となって機体を襲う。 主翼を半分ほど持って行かれ、腕は両方とも寸断され、可変機構にも深刻なダメージを与えられ、エンジンはガタが来ていた。 しかしVF-0はまだ飛んでいた。そしてアルトの瞳も最後のゴーストを捉えて離さなかった。 数々の損害を代償にミサイルの回避と莫大な推力を貰ったVF-0は一瞬にしてゴーストの前に躍り出た。 発砲されるレーザーの嵐。 通常なら回避する攻撃だ。しかしこのエンジンの様子だともはや攻撃はラストチャンスであり、残された攻撃方法も特攻以外に残されていなかった。 コックピットへと飛び込んできた無数のレーザーに全身が焼けるように熱くなって感覚が失せる。だがアルトの突入への気迫が勝った。 「終わりだぁーーーーー!!」 VF-0は迷わず特攻を敢行。その1機を相打ちにした。 「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・」 アルトはブラックアウトしたシュミレーターの全天画面の下、しばし休憩する。 全身がジンジン痛むが、体はなんとも無いし、徐々に収まる。どうやら被弾の痛みはEXギアの仕業のようだ。脳に直接信号を送り込んで激痛を走らせているらしかった。 それにメサイアの生み出す擬似的な重力加速度やシュミレーターのハイレベルな完成度からまさに真剣にやったため、たった5分の戦闘での疲労はフルマラソンに3~4回連続出場したレベルにまでアルトを追い詰めていた。 そうして満身創痍でシュミレーターを降りた彼を迎えたのは『ミンチ・キロ100円』や『I m dead』等と書かれたプラカードを持ったミシェルではなく、生徒やなのは達の満場の拍手だった。 「さすが〝アルト〟だ。俺でも2機しか落とせなかったのに」 ミシェルが正確に名を呼んだこと。それがアルトに対する最大級の賛辞を表していた。 (*) その後場所を普通の部屋に移し、講義が行われた。教壇で筆をとっているのはあのウィランだ。 内容としては比較的普通のことを教えている。バルキリーで使われるOT・OTMの基礎理論を普通と呼ぶことができればだが。 「―――――従来型の翼で空力制御し、上向きの力を得るやり方と、OTによって力を得る方法がある。工藤、主に何の力があるか言ってみろ」 ウィランの指名にただ1人の女子生徒、工藤さくらが立ち上がって答える。 「は、はい!〝摩擦〟〝圧力〟〝誘導〟の3種類です」 「では従来の揚力方程式にOT加えるとどう置き換えればいいか?」 続くヴィランの詰問にさくらは 「抗力係数をClから・・・・・・」 と従来の式の係数はスラスラ出たが、それを加えるとどうなるかを忘れたのか、大慌てでプリントをペラペラめくる。 「えぇーと・・・・・・Cdに置き換えればいいはずです」 ウィランはよろしいといって彼女を席に着かせ、講義を再開した。 アルトには自明のことだが、なのははためすすがめつしながら複雑な計算式の書かれたプリントとホワイトボードに書かれた計算式を見比べ、しきりに顔を捻る。 なのはは見たところ理系に近いが、1期生達のような工学系大学出身でも手間取るのに、彼女のような中卒でOTやOTMを理解しろというのも無理な話だろう。 ちなみに第1管理世界の教育は短期集中で、大学でも15歳で卒業できた。 (*) 90分の講義が終わり、アルトが時計を見るとすでに16時を回っていた。 ロングアーチに技研に行く旨は伝えてあるが、報告書の提出など帰ればやることはたくさんある。 「なのは、そろそろ―――――」 「そうだね」 なのはが頷く。 現在教室は休憩時間に入っており、生徒のほとんどが机に突っ伏して静かに寝息を立てている。 「それじゃさくらちゃん、頑張ってね」 「はい。ありがとうございます」 唯一の女子生徒、工藤さくらが笑顔でなのは達に手を振ると、机に吸い寄せられるように横になり、数瞬後には 「くー・・・」 とイノセントな寝息をたて始めた。 生徒達はいつもハードスケジュールらしい。 アルトとなのはは顔を見合わせて笑うと、静かに教室を抜け出し、教員室に向かった。 (*) 「もう、お帰りに?」 ウィランが惜しそうに言う。 「はい。今日はお世話になりました」 「いえ、こちらこそ。また来てやってください。あいつらのいい刺激になるので」 「はい♪」 なのはが満面の笑み。間違いない、コイツはまた来る気だ。 アルトは頭を抱えたが、同時に彼に問おうと思っていたことを思い出した。 「ところでウィラン三佐、ギャラクシー所属だったそうですけど、どうやってここへ?」 アルトの問いに、机に向き合っていたウィランがコンピューターにワイヤード(接合)していたコネクターを外し、コードとともに〝耳の後ろ〟辺りに巻き戻した。それがあまりにも自然な動作だったためアルトですら一瞬気がつかなかった。 「え? アンドロイド?」 ミッドチルダではインプラント技術が進んでない(フロンティア同様、医療目的以外禁止されている)ため、なのはが目を白黒させる。 そんな彼女のセリフにウィランは一笑すると 「残念ながら全身義体じゃないよ。これはただの後付けの情報端末で、あとはナチュラルだ」 と簡単に説明した。そしてイスを引くと、アルト達に向き直る。 「・・・・・・それで本題だな。実はギャラクシーの急をフロンティアに伝えようと急ぎすぎたんだ。おかげで機体のフォールド機関が暴走してこの有り様だよ」 彼は肩を竦める。どうやらウィランも同じくフォールド事故で来ていたらしい。 「機体はどうなりました?」 「俺の乗っていた高速連絡挺は技研に差し押さえられてしまったよ。だが糞虫どもにやられてボロボロだし、連中の手には余る代物だからな。ほとんど解析出来なかったみたいだ。フロンティアの脱出挺が来てからは、OTの流出を最小限にして管理局を手伝おうと思ったんだが・・・・・・バレちゃったみたいだな。昨日、連中がいきなりフェニックスの変換装甲を作動させた時は驚いたぞ」 「いや、その、すいません・・・・・・」 どうやら技術の漏洩を黙認していたのはアルト達だけらしかった。 「まぁ起きてしまったことはもう仕方ない。おかげで量産のメドが立ったし、幸いここの連中はいいやつだ。OTを人殺しに使うようなことはないだろう」 ヴィランはそう言ってアルトの肩を叩いた。 その後フェニックスの整備に行っているというミシェルによろしくと言い残し、アルトとなのははフェニックスと一緒に陸路で搬入されたVF-25の待つ格納庫に向かった。 (*) 格納庫に着くと、知らせを受けたのか田所が待っていた。 「田所所長、お見送りですか。ありがとうございます」 なのはが一礼。 「いや、しっかり謝りたかったのだ。・・・・・・アルト君すまなかった、あの事を隠していて」 アルトはかぶりを振る。 「必死だった。どうしてもここの人々を守りたかった。そういうことなんだろ?」 田所が頷く。 「なら、恨みっこなしだ」 アルトは踵を返すとVF-25に向かう。しかし立ち止まり、背を向けたまま一言呟いた。 「俺も言い忘れてたけど、VF-25を―――――俺の恩人の形見を直してくれてサンキューな」 「うむ。いつでも来い。今度来たときにはその機体のかわいいエンジンをギンギンにチューンしてやる」 アルトは振り返り 「ああ」 と破顔一笑。そしてなのはを伴ってVF-25のコックピットに収まると、すっかり暗くなった夜空に飛翔していった。 ―――――――――― 次回予告 シェリルの元に届く知らせ。 それはアルト達の居場所を導く手がかりとなるものだった! そして決行される乾坤一擲の大作戦。その成否はいかに! 次回マクロスなのは、第9話『失踪』 「あたしの歌を、聞けぇぇー!」 ―――――――――― シレンヤ氏 第9話へ
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目が覚めると、そこは見知らぬ世界だった。 魔法少女リリカル☆なのは~NEXUS~ 第一話 『悪魔』 闇の書事件。ロストロギア、『闇の書(夜天の魔導書)』を巡る事件から一年が経とうとしていた。事件の中心人物だった 少女、八神はやては今では自力で歩けるまでに回復し(もっとも、まだ激しい運動はタブーだが)、家族である魔導 書の騎士達も、管理局の保護観察を受けながらも彼女と平和な日々を送っていた。 そんなある日の夜。 「今日はすき焼きやぁ。ヴィーダもお腹すかしてるやろなぁ」 「そうですね。あ、そうだ。帰りに皆のアイスを買っていきましょう」 「ええなぁそれ」 はやてと彼女の守護騎士の一人であるシャマルはゆっくりと鳴海市内を歩いていた。シャマルもまだあまり速く歩け ないはやてに合わせて気持ちゆったり歩いている。荷物は二人で半分ずつ。全部持つと言うシャマルをはやてが説得 して、半分ずつにするのは何時ものことだった。 ふと、はやては空を見上げた。頬に当たった冷たい感触。雪だ。またふわふわと降りてくる。 「……雪やなぁ」 「……そうですね」 二人はしんしんと降る柔らかな雪をしばらく見つめ続けた。彼女達にとって、雪とは特別な意味を持つものだから。 「(リィンフォース……今どこにおるんやろなぁ)」 一年前に旅立っていった一人の家族のことを思い、はやては少しだけ微笑んだ。 刹那、夜空を白い光が掠めた。 「あれ?流れ星?」 はやてが言った。シャマルもつられてそれを追う。だがその光が輝いたのは一瞬。もう見えるはずも無かった。 「願いこと、しましたか?」 「そんな余裕、あらへんよ」 「ほないこか」はやてとシャマルは手を繋いでその場を後にした。 「(今の光、本当に流れ星やったやろか……)」 心中、はやては首を捻っていた。今の光は魔導師が飛行する時に残す魔力の残光にも見えたからだ。 闇の書事件から一年が過ぎようとしていた十二月一日。一人の青年が漂着しているのが発見されて市の病院に運ばれ、 その明朝に行方を眩ましてから一週間後のことだった。 砂漠に覆われた世界。かつて、フェイト・テスタロッサ(現フェイト・T・ハラウオン)とはやての守護騎士、シグナムが 激突したこの地で今、管理局の精鋭達は己らの知る存在を遥かに超えたモノと交戦していた。それは静かに、しかし 確実に彼らに死を運ぼうとしている。 「く、くそぉっ!」 彼らとて管理局の精鋭。その強い自負があった。故に彼らはここで判断を誤る。 逃げておけばよかったのだ。形振り構わずに。この中の誰一人として、それに敵うはずがなかった。 「消えろぉっ!」 一人の魔導師が破れかぶれに魔道杖を振るった。他の魔導師もそれを見て、何とか自分を奮い立たせて『ソレ』に 立ち向かった。同時に繰り出される砲撃魔法。青の光の爆発が『ソレ』を吹き飛ばした。 「なっ!?」 かに見えた。あれだけの砲撃を受けたというのに、『ソレ』は確かに自分の足で立っていたのだ。 「こんな……馬鹿なことが……」 恐怖を一気に通り越させられて、絶望の底辺。その巨体が、彼ら管理局魔導師の自信と意地、全てを砕いて捨てた。 それは確かに人の形をしていた。しかし人ではない。 まず大きさが違う。それはまるで大型の傀儡兵のよう。 そしてそれは仮面を被っているようだった。人でいう口の部分の輪郭が、まるで笑っているようで。しかしその 微笑みは優しげでない。この世全てを哂うような皮肉げな微笑。頭頂部からは角のように突起が生え出ていた。 胸には黒い水晶体。 全身を覆う黒と赤の斑なツートン。それはかつて、ある世界でこう呼ばれていた。 悪魔―『ダーク・メフィスト』と。 『下らん、これがお前達、魔導師とやらの力か』 地の底から響いてくるような低い声。戦う意志をすっかり失っていた局員達をさらに追い詰める。彼らに許されることは ただ震えることだけである。 『まあ良い。最初からお前達には期待などしていない。人間の身で、私に対抗し得るはずがないのだから』 ダーク・メフィストは腕を胸の前で交差させた。その両腕に集う紫紺の妖光。炸裂音を発しながら増してゆくその光を前に しても、優秀なはずの管理局員達は身動き一つ取れなかった。あまりにも大きな力の壁を前にして、心と身体が麻痺してし まっていた。やはり彼らに残された道はただ死を待つことのみ……― 『諦めるな』 世界に、希望の光が射した。 ここが何処なのか、分からない。自分に残されたこの力が何を意味するのか分からない。あの時、確かに感じた はずだ。自分からあの溢れる力が抜けていくのを。だというのに今、身体を満たしているのは失ったはずの光の力。 一体何故?何の為に?この力はあるというのだろう。それはまだ分からない。それでも……。 「この力が有る限り、俺は退かない」 姫矢准は、再びエボルトラスターを天に振り上げた。贖罪の戦いはもう終わったのかもしれない。それでもまだ 宿命が告げていた。戦い続けろと。砂塵舞う地に降り立ち、立ち上がる銀(しろがね)の巨人。眼前に立ち塞がるの はかつての強敵。それに向かって彼の戦士は立ち向かう。 ウルトラマンネクサス・アンファンス、降臨。 ED『英雄』 次回予告 傷付き、倒れるウルトラマン。 『所詮は光の残り滓。お前にはやはり、輝く力は残されていなかったということだ』 再び闇を彷徨う姫矢。 「堕ちて来いよ姫矢。闇は、悪くないぜ」 「俺はお前とは違う!」 そして管理局も強大な敵の対応に追われることとなる。 『黒い巨人、鳴海市上空に出現!』 「なのはさん!フェイトさん!急いで!」 三人の魔法少女VS闇の巨人。 『人の身で、私と戦おうというのか』 次回、魔法少女リリカル☆なのは~NEXUS~ 第二話『暗黒』 「スターライトぉ!」 「プラズマザンバーぁ!」 「ラグナロクっ!」 『ブレイカー!!!』 前へ 目次へ 次へ
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マクロスなのは 第6話『蒼天の魔弾』←この前の話 『マクロスなのは』第7話「計画」 アルトはこちらと同じ様にガウォークで並進するバルキリーに呼び掛ける。 「なぜ生きてるんだミシェル!? 魔法でも死者甦生は無理なはずだぞ!?」 『勝手に殺すな。それともなにか? 死んだ方が良かったのか?』 「いや・・・・・・生きててよかった」 『・・・・・・へぇ、見ないうちに素直になったなアルト姫』 「姫はやめろ!もう一度ここで戦死したいか!?」 アルトとミシェルと呼ばれる謎のパイロットの激しい口撃の応酬。後部座席でそれを聞くなのはは何がなんだかわからない。 「えっと・・・・・・アルトくん、どうなってるの? お友達?」 アルトはこちらを振り返ると怒鳴る。 「こんなやつ友達なもんか!」 すると聞こえたミシェルが言い返す。 『ほう、言うじゃないか。だが女の子に怒鳴るとは天下のアルト姫も地に落ちたようだな』 それに怒鳴り返すアルト。スカした言動で翻弄するミシェル。口喧嘩はさらに5分にもおよんだが、一触即発という雰囲気どころかお互いそれを楽しんでいるように感じられた。そう思うと自然と笑みがこぼれた。 (本当に仲がいいんだ) 自然と思ってしまった思考はどうやら念話に乗ってしまったらしい。2人は同時に否定する。その息の合ったユニゾンに今度は笑い声を隠すことができなかった。 (*) なのはの仲裁によってようやく2人は矛を収めたが、アルトはやっと重要な事に気づいた。 「そういえばお前、その機体どうした?」 ミシェルはしばし沈黙を守ると一言。 『メイド・イン・ミッドチルダだ』 「は!?」 「え!?」 『・・・・・・詳しいことは技研に着いて、田所所長から聞いたほうがいいだろう』 ミシェルのVF-0はガウォークからファイターに可変し旋回していく。アルトはなのはの了解を得ると、ミシェルを追った。 (*) 10分ほど巡航飛行を続けると六課を飛び越し、クラナガン湾に出た。VF-0が降りる大地は六課とは対岸の半島に存在した。下界には湾内に浮かぶ大きな人工島が見える。 『こちらは時空管理局地上部隊、技術開発研究所のテストパイロット、ミハエル・ブラン一等空尉。管制塔、着陸許可願います』 『・・・・・・確認しました。第7滑走路はクリア。着陸OKです』 続いてVF-0の後についてきたVF-25にも通信が入る。 『管制塔からフロンティア1』 「こちらフロンティア1、どうぞ」 『路面が通常のアスファルトのため、ファイター形態にて滑走路に進入、ミハエル機に続いて着陸してください』 「フロンティア1、了解」 コールサインで呼んでいるのは、近くを飛ぶ民間機の多いせいだ。 この滑走路は管理局の施設ではなく、国営のミッドチルダ国際空港だ。レーダーを見ると、100を超える民間の旅客機、次元航行船が写っている。 ちなみに通常のアスファルトやコンクリートの地面だと、ガウォークのエンジン噴射の熱に耐えられずひび割れが発生する。技研にそのまま帰れないのはそのためだ。 「・・・・・・珍しいのか?」 なのはがさっきからキョロキョロしているので聞いてみる。それになのはは目を輝かしながら応えた。 「うん。空戦魔導士でも危ないって緊急時以外近づかせてくれなかったの。・・・・・・こんなに飛行機が飛んでるんだ・・・・・・ほら!あんな大きい飛行機の操縦なんて楽しいんだろうなぁ~」 彼女はそう言って着地のアプローチに入ったVTOLジェット旅客機を指差す。 オートパイロットの見張り役と酷評される民間機のパイロットからすれば、Sランクで自由に空を飛べるなのはの方がよっぽど羨ましいに違いない。だが人間、自分に無いものが羨ましくなるものだ。 その後もひっきりなしに離着陸する民間機に混じって無事着陸。そのままVF-0とVF-25は格納庫へ運ばれ、アルト達はリニアレールで技研に向かった。 その道中なぜミシェルは生きているのか?また、なぜこの世界にいるのか?が彼の口から明かされた。 彼の話によると宇宙に放り出されてすぐ、EXギアの緊急装置を作動させて体を風船のようなもので包み、凍死と窒息の危機から身を守ったらしい。 そして今度は怪我から意識を失いかけていたミシェルだが、そこにアイランド3から誤作動で切り離された脱出挺が偶然通りかかり救助されたという。 その後避難していたフロンティア市民を乗せたまま漂流していた脱出挺はアイランド3から発生した謎の爆発に呑み込まれフォールドしたらしい。―――――その爆発がバジュラ殲滅に使ったフォールド爆弾『リトル・ガール』であることは言うまでもない。―――――脱出挺は奇跡的にフォールド空間へと振り落とされたらしく、乗員達が気づいた時にはこの世界に来ていたという。 「じゃあこの世界には俺たちよりも早く来たのか?」 向かい合わせのミシェルは頷くと話を続ける。 「あぁ、もう8カ月前になるな。そういえばその様子だとバジュラの野郎共には勝ったみたいだな。フロンティアはどうだ?・・・・・・クランはどうしてる?」 (やはりこの男はクランを気にかけているんだな) そういえばなどと言っているが、ずっと気にしていたのは分かった。おそらく彼女にもしものことがあったら・・・・・・と聞くのが怖かったのだろう。 「安心しろ。あれからバジュラとの共存の道が開けたんだ。だから両方とも無事。今ではバジュラの母星に移民した。もう1年になる」 「そうか・・・・・・よかった」 ミシェルはそう胸を撫で下ろした。 ちなみにそれぞれの客観時間がずれていることはフォールド航法を使うとよくある事なので、まったく気にならなかった。 「・・・・・・でだ、なんで知らせてくれなかったんだ?」 「技研の作業がぎっちぎちでな。しかしおまえがランカちゃんと来た時には驚いた。暴動に歌か。まったく昔の自分を見るようだったぜ。しかも俺達が必死こいて守ったオーバーテクノロジーも全部暴露しやがって」 「あ、いや・・・・・・すまない・・・・・・」 機密を漏らすということに罪悪感があったので素直にあやまった。そんな2人の会話になのはが仲裁しながら入り込んできた。 「まぁミハエル君、あんまりアルトくんを責めないであげて。それで他のフロンティア船団から来た人達はどうなったの?」 「なのはちゃん、親しい友人はみんな俺のことをミシェルって呼ぶんだ。だからミシェルって呼んでいいよ」 彼のウィンクに頬を赤らめるなのは。 ミッドチルダとフロンティアでは客観時間がずれている。そのためまだミシェルは17~18歳のはずだ。一方なのはは資料によれば19歳。年上だ。つまり年上しか狙わないミシェルの射程内ということになる。 しかしクランとのことや、なのはが戦闘職であることから外れるかもしれないが、この8カ月が彼を変えたかもしれない。 (こいつ(空とベットの撃墜王)に狙われてからでは遅い・・・・・・) アルトは一応予防線を張ることにした。なのはに念話で呼びかける。 『(なのは、こいつはやめたほうがいいぞ)』 『(? どうして?)』 『(実はそいつ・・・・・・ゲイなんだ)』 「ふぇ!?」 なのははおどろきのあまり素っとんきょうな声をあげた。 「どうしたの? なのはちゃん?」 ミシェルは顔を真っ赤にしたなのはに問う。 「ううん、なんでもない・・・・・・」 「ん? そっか。とりあえず他の人達だよね。民間人は普通にミッドチルダで暮らしてるけど、元新・統合軍の軍人さんはみんなを守りたいって残らず時空管理局の地上部隊に入局してるよ」 不思議なことに、民間人含めてみんながみんな魔力資質があってね。と付け加える。 「ミシェル君も?」 「ああ。大抵クラスBだったんだが、俺はAA+だった」 「へぇ、そっちの世界に魔法がないのが残念なぐらいだね」 なのはが言った辺りでリニアレールのアナウンスが、技研に最も近い駅に到着したことを知らせた。 (*) その後研究員の運転する車で技研に戻ると、彼らを出迎えたのは田所だった。アルトは彼に問いただしたいことが山ほどあったが、田所のたった一言にその気力を挫かれた。 「おかえり」 アルトだからわかる演技でない心からの言葉。父の姿が重なったアルトは少し戸惑いながら 「ただいま」 と返した。 (*) 帰還直後ミシェルは 「用事がある」 とか言って田所と研究員達に連れていかれたが、アルトとなのはは応接室に通された。 しかし入れる部屋を間違えたのか先客がいたようだった。 「レ、レジアス中将!?」 なのはは入ると同時にそのおじさんに敬礼する。 「ん? あぁ、高町空尉。君も来ていたか。第256陸士部隊から君達六課の活躍は聞いている。地上部隊の窮地を救ってくれてありがとう」 もし予算を増やしたのに陸士部隊が敗北してロストロギアを奪われていれば、地上部隊の存続すら危うくなる。リニアレール攻防戦はそういう深い意味のある戦いだった。 「いえ、私達は任務を忠実に実行しただけです」 「それを尊いと言うんだと、私は思う」 彼はそう言ってなのはの肩を叩き、こちらに向き直る。 「早乙女アルト君、君とランカ君には特に感謝しなければならない。君達と我々は元々関係のない間柄なのに、以前の襲撃事件や今回のことなど助けてくれてありがとう」 アルトはその言葉に、以前シグナムに言った事と同じセリフを返す。 「いや、俺たちは偶然あそこにいて、偶然それに対応できる装備があっただけだ」 「とんでもない!我々が助かったことは事実だよ。精神面でも〝技術面〟でも」 技術が各種オーバーテクノロジーを示していることは明白だったが、そこを強調するところはタヌキだ。こうしてこちらの反応を試しているのだろう。 すでにアルトは彼がペルソナ(仮面)をかぶっていることを見抜いていた。しかし、以前のフロンティア臨時大統領、三島レオンのような野心や悪意は感じられない。 彼にあるのははやてと同じような〝守りたい〟という強い思いだけだ。 おそらく彼のような立場になると否が応でもペルソナを・・・・・・権謀術数にまみれた権力の世界を渡るために、被らなければならないのだろう。 「どういたしまして」 そう答えるのと田所が入室するのは同時だった。 邪魔かな?と思ったなのは達は出ていこうとするが、レジアスに呼び止められる。 「丁度いい。君達にも関係ある話だから聞いていきなさい」 そう言うレジアスは空いたソファーの席に俺たちを誘導した。 (俺たちに関係あるってどんな話だ?) なのはのほうも見当が付かないようで、同じようにこちらを見てきた。俺は肩をすくめてそれに応えると、準備する田所所長に視線を投げた。 3人の視線に晒されながら田所は空中に大型のホロディスプレイを出すと、資料を手に説明を始める。 画面には大きく『時空管理局 地上部隊 試作航空中隊についての中間報告』とある。 「今回完成した試作1号機『フェニックス』の実戦テストは無事終了。量産機としてVF-1『バルキリー』の第1次生産ラインの整備が進んでします。現在は第25未確認世界より漂流してきたL.A.I社研究員より提供されたVFシリーズの設計図から選定したVF-11『サンダーボルト』の解析が完了。試作2号機として試作を開始しました。試作機が完成し、テストも順調ならば1ヶ月以内に同機種の生産ラインが整備できる予定です。またパイロットの養成は彼らを教官に順調に進んでおり、1週間以内にVF-1の試験小隊が組める予定です」 ディスプレイに写るVFシリーズの図面は紛う事なきアルトの第25未確認世界のものだ。しかし随所にVF-25の最新技術、またはミッドチルダの技術がフィードバックされている。 2機種のエンジンが初期型の熱核タービンから最新の熱核バーストエンジン(ステージⅡ熱核タービン。AVF型では初期型の2倍。VF-25の最新型では約4倍の推進力を誇る)に換装され、装甲が第3世代型の『アドバンスド・エネルギー転換装甲(ASWAG)』になっていた。 また、推進剤のタンクが本来入るべき場所に小さなリアクターが居座っていた。このリアクターは改修したVF-25の装備と同じようだ。 VFシリーズの装備群は、基本的に反応炉(熱核タービン)のエネルギーを流用する。しかしそれではまるっきり質量兵器と同じなため、このリアクターが搭載されたのだ。 これは名称を『Mk.5 MM(マイクロ・マジカル)リアクター(小型魔力炉)』といい、ミッドチルダにはすでに30年以上前から製作、量産する技術力があった。しかし魔導士が携帯するには大きすぎ、車両に搭載すると質量兵器に見られかねない。・・・・・・いや、まずこれほどの出力が通常個人レベルの陸戦では必要なかった。 かといって基地や艦船の防衛システムに使うには逆にひ弱で、正規の艦船用や基地用の大型魔力炉に比べると受注量は少なかった。 そこに目を着けたのが『ちびダヌキ』の異名を持つ八神はやてだった。 彼女は比較的安価でVF-25に搭載するには十分小型なこの魔力炉を搭載させ、兵装と推進系を改装したのだ。 この魔力炉は『疑似リンカーコア』とも呼ばれており「個人の魔力を最大500倍まで増幅する」というのが本当の機能だ。しかし本物のリンカーコアがないと、使用はおろか起動すら出来ない。 だから誰でも、そしてボタンを押せば使えるような兵器ではない。 「これは魔法そのものである」 というのが六課側の主張であり、報道機関の協力もあって世論からは認められている。 しかし六課自身もこれは質量兵器であり、ランカを守るための希少な戦力であるべきだと考えていた。 「田所所長・・・・・・まさか本気で量産したりしないよな?」 アルトの問いに田所の表情が陰る。彼は正直なのだ。 しかし、今まで『管理局は質量兵器を使わない』と信じていた。または、信じようとしていたなのはやアルトには衝撃だった。 「田所所長、君は答えなくていい。私から説明しよう」 レジアスは立ち上がると、自らの端末を操作してディスプレイに投影する。 〝56回〟 上の見出しによるとミッドチルダでのガジェットの出現回数のようだ。 確か六課はこの回数の半分ぐらい出撃しているはずだ。 六課は新人の研修ばかりやっているように思われがちだが、今回のリニアレール攻防戦以外にも要請を受けてスクランブルしたことは多い。 目立たないのはほとんどが空戦であり、新人達が実戦に臨むことがなかったためだ。 「現在、六課の善戦で地上の平和が守られているといっても過言ではない。しかし、君達1部隊に地上の命運を託すわけにもいかないのだ。そこで突破口となるのがアルト君、君のバルキリーだ」 多少芝居がかったようすで大仰にこちらを指差す。 「俺の?」 「そうだ。バルキリーは改良すれば、魔導兵器として管理局でも採用できるのだ。君が以前襲撃事件の時バルキリーを使い、その業績から世論はそれを許した」 報道機関も珍しく比較的ソフトに表現しており、ミッドチルダ市民はVF-25が上空を飛んでいても不安を覚えず、子供達が手を振っているほどに受け入れられていた。 ちなみに早くも普及の始まったPPBS(ピン・ポイント・バリア・システム)も今では魔法として人々にとらえられており、格闘でもPPBを併用すれば質量兵器を使った攻撃とは見なされない。(VF-25では反応炉で発生させたものであるが、そんなことはもちろん伏せられている) 「しかし、質量兵器廃絶の理念に違反するすれすれではないでしょうか?」 なのはがつっこむが、レジアスは悲しい顔をして言う。 「そこまで追い詰められているのだよ、我々は」 『ピッ』という電子音とともにディスプレイの数字が変わる。 〝12人〟と。 「この数字は、ガジェットとの戦闘で戦死した数だ」 それを聞いた2人の顔が強ばり、田所は顔を伏せた。 「しかしそんな報道は―――――」 「君は住民にパニックを起こせ。と言うのかね?」 レジアスはそう言ってなのはの反論をねじ伏せた。どうやら厳重な報道管制が行われているようだ。 「戦死したのはほとんどBランク以下の者だ。」 列挙される殉死(戦死)者名簿。右端に書かれた魔導士ランクを見ると、確かにB,Cランクで固まっている。しかし1人だけAAランクの魔導士がいた。職種は空戦魔導士。部隊名は『第4空戦魔導士教導隊』。それはどこかで聞いた部隊名だった。 (確かなのはの―――――) 「え?うそ・・・・・・栞!?」 なのははそのAAランクの者の名を叫ぶ。 そう、確かその部隊はなのはの前任地だった。 レジアスはそんな彼女の驚きを予想していたようだ。彼はその宮島栞二等空尉のデータを呼び出す。 「彼女は管理局員の鏡だった」 レジアスはそう前置きをして話始める。 彼によれば教導隊はその日、海上で学生上がりの見習い空戦魔導士の訓練を行っていたそうだ。 しかしその時、部隊は大量のガジェットⅡ型の奇襲を受けた。教導隊は必死の防衛戦の末撃退は不可能と判断し、転送魔法による撤退を選択した。 だが敵の攻撃が激しく、学生を守りながらではとても逃げられなかったという。 「そんな時彼女は、全員を逃がすために囮になったんだ。おかげで新人含め部隊はほとんどが無事に帰還した。だが彼女だけは・・・・・・」 遺体は海上のためか発見されなかったらしい。しかし発見された彼女のデバイスのフライトレコーダーから彼女の死亡が確認されたという。 「彼女はフライトレコーダーに最期の遺言を残していた。それがこれだ」 レジアスは端末を操作してプレーヤーを起動し、再生した。 『みんな、無事に逃げたよね? 私はここまでみたいだけど、きっと仇をとってね。私は空からみんなを見守ってるから! ・・・・・・なのはちゃん知ってるよね?この前見た映画で私、「私も『空からみんなを見守ってる』って言ってみたいなぁ~」って言ってたこと。でもいざそうなってみると、あんまり感慨深くないんだね』 無理にでも明るく振舞おうとする声。きっとそうして恐怖に対抗しているのだろう。 敵に囲まれ後は座して死を待つのみ。その恐怖は想像するに難くなかった。 そしてその声に混じる爆音。それは彼女の後ろに迫る死神の足音のように響く。 『・・・・・・もう時間がないみたい。これを聞く人みんなにお願いします。絶対この機械達に私の無念を晴らさしてやってください―――――』 そこでプレーヤーが止まった。・・・・・・いや、まだ残っているがレジアスが止めたのだ。 シレンヤ氏 第7話 その2へ
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第6話「決意、そしてお引越しなの」 「じゃあ、メビウスからは何も連絡は……」 「はい……ウルトラサインもテレパシーも、一切ありません。」 地球から遠く離れた宇宙に存在する、M78星雲。 その中にある、地球よりも遥かに巨大な星―――光の国は、ウルトラマン達が住まう星である。 そんなウルトラマン達の中でも、優れた戦闘能力と、そして優しさを持つ戦士達がいた。 彼等はウルトラ兄弟と呼ばれ、宇宙の平和を守る宇宙警備隊の一員として、日夜戦っている。 そのウルトラ兄弟達に、今、未曾有の事態が起きた。 ウルトラ一族にとっては最大の宿敵の一人といえる、最大の悪魔―――ヤプール人が復活を果たした。 ヤプール人とは、異次元に存在する邪悪そのもの。 自らを、暗黒から生まれた闇の化身と豪語する悪魔である。 ヤプール人はこれまで、幾度となくウルトラ一族へと戦いを挑んできた。 ウルトラ兄弟達は、その都度何度も撃退したが……ヤプールは、何度も復活を果たしてきた。 彼等はヒトの負の心を好んでマイナスエネルギーに変えてエネルギー源としているため、その存在を完全に消し去る事は不可能なのだ。 ヒトがこの世から完全に消え失せれば、もしかすると可能かもしれないのだが、そんな馬鹿な話はありえない。 一時は、封印という形で決着をつけられたかのように思えたが……その封印も、悪しき侵略者に破られてしまった。 結局ウルトラ兄弟達は、ヤプールが復活する毎に打ち倒すという手段を取るしかなかった。 そしてつい先日、彼等はヤプールが潜む異次元へと乗り込み、決戦に臨み、ヤプールに打ち勝つことができたのだが…… ここで、予想外の事態が起こった。 ヤプールを倒した影響により、異次元世界は崩壊を迎えようとしたのだが……ヤプールがここで、最後の悪足掻きを見せた。 ウルトラ兄弟の末弟―――ウルトラマンメビウスを、道連れにしていったのだ。 メビウスはヤプールと共に崩壊に巻き込まれ、そして行方不明となった。 兄弟達は、様々な手段を使ってメビウスの捜索に当たっていたのだが、メビウスの行方は全く分からないままであった。 もしもメビウスがまだ生きているとするならば、可能性は一つしかない。 「やはり、崩壊の影響でどこか別の次元に落ちてしまったのか……」 「しかし……そうだとしたら、どうやってメビウスを探せばいいんですか?」 「メビウスから何か連絡があれば、どうにかならなくもないんだが……」 メビウスは、どこか別の異世界にいる可能性が高い。 それがどこか分からないのが、問題ではあるが……それさえ分かれば、救出に向かうことはできる。 ウルトラ兄弟の中には、異なる次元・異なる世界への転移能力を持つものもいるからだ。 今現在、メビウスを救う為に、光の国の者達は一丸となって動いている。 ウルトラ兄弟の長男にして宇宙警備隊の隊長であるゾフィーは、空を仰ぎ遥か彼方―――地球を眺め、弟のことを思う。 「メビウス……一体、どこに……?」 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「なのは、フェイト!!」 「ユーノくん、アルフさん……」 「二人とも、もう体は大丈夫なのかい? 大分酷いダメージだったけど……」 「うん、何とか。 私はしばらく、魔法は使えないみたいだけど……」 丁度その頃であった。 時空管理局の本局にて、なのは・フェイト・ユーノ・アルフの四人が久方ぶりの再会を果たしていた。 こうして直接顔を合わせるのは、彼等が出会う切欠となったPT事件以来である。 しかし、彼等の表情には喜び半分不安半分という所である。 その原因は、大きく分けて二つ。 一つ目は、言うまでもなくヴォルケンリッター達の存在にある。 そしてもう一つは、なのはとフェイトが受けたダメージの大きさにあった。 なのはは、自分でも攻撃を受けた時点で予想はしていたが……魔力の源であるリンカーコアが、異常なまでに縮小していた。 魔力を吸い取られてしまい、回復するまでの間、一時的に魔法を使えない状態にあったのだ。 フェイトも、なのは程ではないとはいえ、それなりのダメージを受けていた。 しかし何より……二人とも、自分のデバイスに大幅な破損を受けてしまっていたのが大きかった。 レイジングハートもバルディッシュも、再起不能な状況にまで追い込まれてしまっていたのだ。 自己修復作用だけでは間に合わないため、現在パーツの再交換作業の真っ只中にあった。 「レイジングハート……」 「ごめんね、バルディッシュ……私の力不足で……」 「……こういう言い方は何だが、これは二人のミスじゃないよ。」 「クロノ、エイミィ、リンディ提督……それに……」 「ミライさん……」 落ち込むなのは達へと、部屋に入ってきたクロノが声をかけた。 その傍らには、彼の相棒であるエイミィと、アースラ艦長のリンディ。 そして……ミライがいた。 クロノは、自分達が相手をしていた敵の魔法体系―――ベルカ式について、簡潔に説明を始めた。 今回なのは達が敗北したのは、彼女達の魔法体系―――ミッドチルダ式との相性の悪さが大きかった。 ベルカ式とはその昔、ミッド式と魔法勢力を二分した魔法体系。 遠距離や広範囲攻撃をある程度度外視して、対人戦闘に特化した術式である。 ミッドチルダ式と違い、一対一における戦いを念頭に置いてあるものなのだ。 そしてその最大の特徴は、デバイスに組み込まれたカートリッジシステムと呼ばれる武装。 なのは達もその目でしかと見た、ヴォルケンリッター達が使っていたシステム。 儀式で圧縮した魔力を込めた弾丸をデバイスに組み込んで、瞬間的に爆発的な破壊力を得る。 術者とデバイスに負担はかかるものの、かなりの戦闘能力を得られる代物である。 「随分、物騒な代物なんだね……」 「ああ……多くの時限世界に普及している魔術の殆どは、ミッド式だからね。 御蔭で、解析に少しばかり時間を取られてしまったよ……」 「そうだったんだ……」 ベルカ式に関しての説明が終わり、皆は少しばかり考えた。 自分達の使っている魔法が、魔法の全てではない。 これから先、自分達の前に立ちふさがるのは、まだ見ぬ未知なる強敵。 かつてのPT事件と同様か、それともそれ以上の戦いになるかもしれない。 誰もが息を呑むが……その直後であった。 皆が、ベルカ式よりも最も疑問に思わねばならぬ事に気づいた。 戦闘の最中、突如として謎の変身を遂げたミライ―――ウルトラマンメビウスについてである。 当然ながら、視線はミライに集中することになる。 ミライも、ここで隠し事をするつもりはなかった。 丁度いい具合にメンバーも揃っている……ミライは、全ての事情を話し始めた。 「リンディさん達には、先にある程度の説明はさせてもらったけど、改めて全部話すよ。 僕の事……ウルトラマンの事について。」 ミライは、隠していた事情も含めた全てを話した。 自分は宇宙警備隊の一人であり、そしてウルトラ兄弟の一人である、ウルトラマンメビウスである事。 異次元に潜む悪魔―――ヤプールとの戦いの末に、次元の狭間に呑まれた事。 そして気がついたら、アースラに救助されていた事。 自分の正体を明かせば、周囲の者達にも危険が及ぶと判断し、正体を隠していた事。 先に説明を受けていたリンディ・クロノ・エイミィの三人は、二度目となるため流石に驚いてはいなかった。 一方なのは達四人はというと、当然ながら驚き、そして呆然としている。 別世界の人間というだけならば、まだ分かるが……その正体が宇宙人ときては、少々許容の範囲外であった。 そして、ウルトラマンという存在についてにも驚かされた。 宇宙警備隊という、時空管理局に匹敵するほどの大組織の一員として、ミライ達は動いている。 彼は、その中でも特に秀でた戦士であるウルトラ兄弟の一人―――中には、メビウスよりも強いウルトラマンはいるという。 早い話……ミライがとんでもない大物であった事に、皆驚いているのだ。 「えっと……一つだけ、質問してもいいですか?」 「いいけど、何かな?」 「話を聞いてて、少しだけ不思議だったんですけど……ウルトラマンは、どうして地球を守るんですか? 守らなくてもいいとかそういう話じゃなくて、色んな星がある中で、どうして地球を選んだんだって……」 なのはには、ミライの話の中で一つだけ、腑に落ちない点があった。 ウルトラ兄弟達になる為には、地球防衛の任に就く必要があるという。 そうして多くの事を学び、ウルトラ兄弟になるに相応しいまでの成長を遂げるというのだが…… 何故、彼等が防衛する星が地球なのか。 話を聞く限りでは他にも多くの星はある筈なのに、何故態々地球を選んだのか。 そんな彼女の疑問を聞くと、ミライは少しばかり瞳を閉じた後、ゆっくりと口を開いた。 かつて、共に戦った大切な親友からも同じ質問をされた。 その時の事を思い出しながら……ミライは、なのはに答えた。 「僕達ウルトラマンも、元々はウルトラマンの力を持っていなかった。 皆と同じ……地球の人達と全く同じ、普通の人間だったんだ。」 「え……?」 「ある事故が切欠で、僕達はウルトラマンの力を手に入れた。 ……僕達は、地球の人達に自分達を重ねているんだ。 もう戻る事のできなくなった、あの頃の姿を……」 「だから、地球を……」 ウルトラマンが地球を守る理由。 それは、かつての自分達の姿を重ねているからであった。 更に、地球は多くの侵略者達から、特に狙われている星でもある。 だからウルトラマン達は、地球を守ろうと決めたのだ。 そうして人間達を守る戦いを続けていく内に、ウルトラマンとして何が大切なのかを知る事ができる。 それこそが、彼等の戦う理由であった。 だが、メビウスには……いや、これは全てのウルトラマンの思いだろう。 もっと重要な、戦う理由があった。 「それに……」 「それに?」 「僕達は、人間が好きですから。」 「……なるほど、ね。」 「勿論、人間だけじゃなくて……大切なもの全てを、守りたいと思っています。 困っている人がいるなら、その人を助けるためにウルトラマンの力はある。 僕はそう信じてます……だから、決めました。」 「え……決めたって?」 「ミライ君は、元の世界に戻る手立てがつくまでの間、私達に協力してくれるって言ってくれたんだ。」 ミライは、今回の事件に関して全面的に協力すると、リンディへと話を通していたのだ。 自分達を助けてくれた時空管理局の者達に、恩返しがしたいからと。 それに、もう一人のウルトラマン―――ダイナの事が気がかりであるからと。 前者だけでもミライにとっては十分な理由であり、加えて後者のそれもある。 ここで引き下がれというのが無理な話だ。 保護した民間人に戦闘をさせるというのは流石に気が引けたのか、最初のうちはリンディも遠慮していた。 しかし……ミライの積極的な申し出に、彼女も折れたのだ。 最も、局員ではないなのは、フェイト、ユーノ、アルフの四人が協力している時点で、今更な感はあるのだが…… メビウスの力は、確かに今後の戦いを考えると必要不可欠だろう。 闇の書側についているとされる謎のウルトラマンとの戦いには、最も彼が向いている。 なのはやフェイト達どころか、下手をすればアースラ最強の戦闘要員であるクロノさえも危ない程の強敵なのだから。 「さて……それじゃあ、フェイト。 そろそろ面接の時間だが……なのは、ミライさん。 二人も、僕に同行を願えないか?」 「……?」 「面接……うん、いいけど……」 なのはとミライの二人は、面接という言葉の意味がいまいちよく分かっていなかった。 聞く限りじゃフェイトの用事らしいのだが、それにどう自分達が関係するのだろうか。 不思議そうに、二人は顔を見合わせる。 そんな様子を見たクロノは、難しく考える必要はないと言い、部屋を出て行った。 三人は、彼の後についていく。 「エイミィ、面接って?」 「うん、フェイトちゃんの保護観察の事についてだよ。 保護観察官のグレアム提督と、まあちょっとしたお話。 なのはちゃんはフェイトちゃんの友人って事で呼ばれたんだと思うけど…… ミライ君は、まあ色々と大変な事情が重なってるからね。 多分、そこら辺の事に関してじゃないかな?」 「へぇ~……」 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「クロノ、久しぶりだな。」 「ご無沙汰しています、グレアム提督。」 そしてその頃。 クロノの案内によって、時空管理局顧問官―――ギル=グレアム提督の部屋に三人はついていた。 三人は椅子に座り、グレアムの言葉を待つ。 何処となく緊張している様子の彼等を見て、グレアムは少しばかり苦笑した。 その後、本題に入るべく、手元の資料を見ながら三人へと話しかける。 「フェイト君、だったね。 保護観察官といっても、まあ形だけだよ。 大した事を話すわけじゃないから、安心していい。 リンディ提督から、先の事件や、君の人柄についても聞かされたしね……君は、とても優しい子だと。」 「……ありがとうございます。」 「さて、次は……んん? へぇ……なのは君は日本人なんだな。 懐かしいなぁ、日本の風景は……」 「……ふぇ?」 「はは……実はね、私は君と同じ世界の出身なんだ。 私はイギリス人だ。」 「ええ!!そうなんですか?!」 「あの世界の人間の殆どは、魔力を持たない。 けれど希にいるんだよ、君や私のように、高い魔力資質を持つ者が。」 まさか時空管理局に、自分と同じ世界の出身人物がいるとは、思ってもみなかった。 驚き思わずなのはは声を上げてしまう。 するとそんな様子を見たグレアムは、彼女が予想通りのリアクションをしてくれたのを見て、静かに微笑んだ。 その後、彼は己の身の上話を話し始めた。 「おやおや……魔法との出会い方まで、私とそっくりだ。 私は、助けたのは管理局の局員だったんだがね。 それを機に、こうして時空管理局の職務についたわけだが……もう、50年以上前の話だよ。」 「へぇ~……」 「フェイト君、君はなのは君の友達なんだね?」 「はい。」 「約束して欲しいことはひとつだけだ。 友達や自分を信頼してくれる人のことは、決して裏切ってはいけない。 それが出来るなら、私は君の行動について、何も制限しないことを約束するよ……できるかね?」 「はい、必ず……!!」 「うん……いい返事だ。」 フェイトの力強い返答を聞き、グレアムは安堵の笑みを浮かべた。 その瞳に、一切の迷いはない。 友達の為、大切な人の為に活動できる、強い意志が感じられる……この子はきっと大丈夫だ。 これで、片付けるべき最初の問題は片付けた。 残るは……来訪者、ウルトラマンについて。 「ミライ君だったね……君の話をリンディ提督達から聞かされた時は、本当に驚いたよ。 魔法の力も、君からしたら十分非常識ではあるのだろうが……今の私は、それと同じ気分だね。」 「確かに……僕も最初に皆さんの話を聞いた時は、少し驚きましたよ。」 「はは……君もクロノに呼んでもらったのは、君がいた世界に関してなんだ。 君がいた世界の捜索なんだが、実は私の担当になりそうなんでね。 事情とかは既に聞いているから、改めて君から聞く必要はないが……そういう訳で、挨拶をしておきたかったんだ。」 「そうだったんですか……グレアムさん、よろしくお願いします!!」 「こちらこそ、よろしくだよ。 それで、君の能力に関してなんだが……仲間の人達と連絡を取る手段はないのかな?」 「テレパシーは試してみたんですけど、通じませんでした。 一応、他にももう一つだけ方法があるにはあるのですが……それは、地球に着き次第試してみたいと思います。 ウルトラマンに変身した状態じゃないと、使える力じゃないですからね。」 「うん、分かった。 それと、もう一つ質問するが……気になる事があってね。 君が一戦交えた、あのもう一人のウルトラマンについてなんだが……分かる事は何かないかな? どんな些細な事でもいいから、教えて欲しいんだ。 捜索の鍵になるかもしれないからね。」 「はい……けど、残念な事にはなるんですけど……」 「残念な事……?」 「僕とあのウルトラマン……ダイナとは、初対面なんです。 だから、お互いの事は何も分からないんです。」 「初対面……? ミライさんも会ったことがないウルトラマンさんなの?」 「うん……」 ミライとて、全てのウルトラマンを把握しているわけではない。 実際問題、かつて地上に降り立ったハンターナイトツルギ―――ウルトラマンヒカリの事は知らないでいた。 それに、光の国以外にもウルトラマンは存在している。 獅子座L77星生まれであるウルトラマンレオとアストラがその筆頭である。 この二人のみならず、ジョーニアス、ゼアス……彼等の様な他星の者達も含めれば、数は相当なものになる。 いや、そもそも……それ以前にあのウルトラマンは、自分がいた世界のウルトラマンなのだろうか。 なのは達の世界にウルトラマンが存在していない以上、ダイナは必然的に別世界のウルトラマンということになる。 問題は、その別世界がはたして自分のいた世界と同じなのかどうかという事である。 異次元世界での戦いにおいて、次元の裂け目に落ちたのは自分とヤプールだけだった。 まさかダイナがヤプールな訳がないし、そもそもヤプールがあのダメージで生きているとは思えない。 そうなると……ダイナは、もしかしたら別の世界のウルトラマンなのかもしれない。 自分と同じで、何らかの方法でこの世界に来たウルトラマンなのかもしれないのだ。 これに関しては、本人から聞き出す以外……知る方法はないだろう。 「ただ、戦ってみて分かったんですが……ダイナからは、邪悪な意思は感じられなかったんです。」 「邪悪な意思が……?」 「僕は今までに二回、同じウルトラマン同士でのぶつかり合いを経験した事があります。 その内の一人は、憎しみに捕らわれた可哀想な人でしたが……あの人から感じたような、憎悪とかはないんです。 寧ろダイナは、レオ兄さんの様な……強い信念を持っているように感じられました。」 ミライが、ダイナとの戦いで感じた事。 それは、彼から邪気が感じられないという事実であった。 かつて彼は、ハンターナイトツルギとウルトラマンレオと、二人のウルトラマンと対峙した経験があった。 ツルギとのそれは、対決にまでは至らなかったものの、ミライにとっては忘れられない記憶であった。 目的の為ならば手段を選ばず、ただ復讐の為に力を振るうツルギから感じられたのは、圧倒的な憎悪だった。 ダイナからは、そんな憎悪の様な感情は一切感じられなかった。 寧ろ、ウルトラマンレオの持つ強い正義感に近いものが彼にはあったのだ。 レオがミライに戦いを挑んだのは、敵に破れたミライを鍛えなおす為であった。 強敵を打ち倒す為のヒントを、彼は戦いの中でミライへと授けたのである。 あの行動は、紛れもなく正義を貫く為のもの。 大切な故郷である地球を守り抜きたいという、強い想いによるものであった。 ダイナには、それがあった。 「そうか……クロノ、今回の事件に関しては……」 「はい、もう、お聞き及びかもしれませんが…… 先ほど、自分達がロストロギア闇の書の、捜索・捜査担当に決定しました。」 「分かった……ミライ君。 君はあのウルトラマンとは、この先間違いなく対峙することになる。 その時、君は彼を止められるかな?」 「……絶対とは言い切れません。 ですが、ダイナは話が通じない相手ではないような気がします。 だから何とかして彼の目的を聞き、それが悪いことでないのならば、僕は彼を助けたいと思います。 避けられる戦いは、避けたいですから。 でも、もしも彼に邪な目的があるなら、そうでなくとも彼が立ちはだかる道を選ぶなら……僕はダイナと戦います。 皆を守るために、ダイナを何としても止めてみせます。」 「そうか……いい目をしているね。 君ならば、きっと大丈夫だろう……分かった。 あのウルトラマンダイナに関しては、君が一番頼りになるだろう。 クロノ達と助け合って、最善の道を歩めるよう頑張ってくれ。」 「はい!!」 「私から、君達に話すことは以上だ。 ……クロノ、私の義理では無いかもしれんが、無理はするなよ。」 「大丈夫です……急事にこそ冷静さが最大の友。 提督の教えどおりです。」 「そうだな……」 「では、失礼します。」 四人はグレアムに一礼した後、退室していった。 理解のある人で、本当によかった。 ミライ達は、心からそう思っていた。 彼の心に答える為にもと、三人は精一杯の努力をする決意を固めるのだった。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「はやてちゃん、お風呂の支度できましたよ。 ヴィータちゃんも、一緒に入っちゃいなさいね。」 「は~い。」 同時刻、海鳴市。 八神家では、何てことない平和な日常の光景が見られた。 風呂が沸いた為、はやてとヴィータ、シャマルが三人で風呂場へと向かう。 シグナムはソファーに座って新聞を読み、ザフィーラは横になって寛いでいる。 そしてアスカはというと、テレビでやってるクイズ番組に夢中になっていた。 『ヘキサゴン!!』 『主にオーストラリアに分布する、その葉がコアラの主食として知られるフトモモ科の植物は何でしょう?』 ピンポンッ!! 『はい、つるの押した。』 『よしきたぁっ……笹ッ!!』 ブーッ!! 『え、何でだよ!?』 『……あのなぁ、つるの!! それコアラじゃなくてパンダやんけ!!』 「やっべ……俺も同じ事考えちまってたよ。」 「おいおいおい……」 「はは……シグナムは、お風呂どうします?」 「私は今夜はいい……明日の朝にするよ。」 「へぇ、お風呂好きが珍しいじゃん……」 「たまにはそういう日もあるさ。」 「ほんなら、お先に~」 三人が風呂場へと入っていく。 その後、ザフィーラはシグナムへと振り返った。 彼女が何故風呂に入るのを拒んだのか、何となく理由が分かっていたからだ。 アスカも二人の様子を感じ取り、振り返る。 「今日の戦闘か?」 「聡いな……その通りだ。」 「もしかしてシグナムさん、どっか怪我を?」 シグナムは少しばかり衣服を捲り上げ、二人に下腹部を見せた。 その行動にアスカは一瞬顔を赤らめ、反対方向へと向いてしまう。 しかし、見たのが一瞬であったとはいえ、十分に確認する事は出来た。 彼女には確かに、黒い傷跡があったのだ。 それは、フェイトとの戦いによって着けられたものであった。 「お前の鎧を撃ち抜いたか……」 「澄んだ太刀筋だった……良い師に学んだのだろうな。 武器の差が無ければ、少々苦戦したかもしれん。」 「でも……きっと、大丈夫っすよ。 今日初めて戦ってるところは見たけど……シグナムさん、結構強そうに見えたし。」 「ふふ……それはありがたいな。 そういうお前こそ……互角の戦いぶりだったな。」 「はい……ウルトラマンメビウス。 あいつとは、また戦うことになるだろうけど……負けません。 次は、必ず……!!」 「ああ……我ら、ヴォルケンリッター。 騎士の誇りに賭けて……」 『おい……お前、アホやろ。』 「あ、つるの抜けた。 よかったぁ、ビリじゃなくて……何か俺、こいつに親近感感じるんだよなぁ。」 「……ビリとビリの一歩手前とじゃ、五十歩百歩じゃないか?」 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「親子って……リンディさんとフェイトちゃんが?」 「そう、まだ本決まりじゃないんだけどね。 養子縁組の話をしてるんだって……プレシア事件でフェイトちゃん天涯孤独になっちゃったし。 艦長の方から、「うちの子になる?」って。 フェイトちゃんもプレシアのこととかいろいろあるし……今は気持ちの整理がつくのを待ってる状態だね。」 場所は時空管理局本局へと戻る。 なのははエイミィから、フェイトがリンディから養子縁組の話を受けたことを聞かされた。 この話は、とてもいいことだとなのはは感じていた。 無論、フェイトの気持ちの整理などもあるから、まだ先の話にはなるのだろうが…… 彼女達が親子となるならば、きっと上手くいくに違いないとなのはは思っていた。 そしてそれは、エイミィやクロノ達にとっても同様である。 (親子、か……) 二人の話を聞いていたミライは、昔の事を思い出していた。 自分も以前に一度、養子にして欲しいといってある人物を訪ねた経験があった。 相手は、今のこの姿―――ヒビノミライとしての姿のモデルとなった人物の、父親である。 彼はミライと暮らすことは出来ないと、その申し出を拒否した。 しかし……ミライが進むべき道を、はっきりと示してくれた。 彼の協力がなければ、今の自分はなかった……そう思うと、やはり感謝すべきだろう。 「さて……皆、揃っているわね。」 噂をすればなんとやら。 丁度、フェイトとリンディの二人が部屋へとやってきた。 それを合図に、騒がしかった室内が一気に静かになる。 今この部屋には、アースラクルーの者達が勢揃いしていた。 今回の事件に関しての説明が、これから行われるのである。 「さて、私たちアースラスタッフは今回、ロストロギア・闇の書の捜索、および魔導師襲撃事件の捜査を担当することになりました。 ただ、肝心のアースラがしばらく使えない都合上、事件発生地の近隣に臨時作戦本部を置くことになります。 分轄は観測スタッフのアレックスとランディ。」 「はい!!」 「ギャレットをリーダーとした、捜査スタッフ一同。」 「はい!!」 「司令部は私とクロノ執務官、エイミィ執務官補佐、フェイトさん、ミライさん、以上4組に別れて駐屯します。」 各々の役割分担について、リンディが説明し始めた。 地上におかれる司令部には、リンディ達五人が駐屯する事になる。 そして、その肝心の司令部の場所はというと…… 「ちなみに司令部は……なのはさんの保護をかねて、なのはさんのおうちのすぐ近所になりまーす♪」 「えっ……!!」 「……やったぁっ!!」 なのはとフェイトは顔を見合わせ、満面の笑みを浮かべた。 その様子を見て、アースラクルー皆も笑顔を浮かべる。 今回の事件は、なのは達の世界が中心だからそこに司令部を置くのは当然のことではあるものの。 中々、リンディも粋な計らいをしてくれたものである。 早速引越しの準備ということで、皆が動き始めた。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「うわぁ……すっごい近所だぁ!!」 「ほんと?」 「うん、ほらあそこ!!」 翌日。 なのは達は、司令部―――高町家から凄く近い位置にあるマンションにて、引越し作業の最中であった。 なのはとフェイトの二人はベランダから、外の風景を眺めている。 ミライはエイミィやクロノ達と一緒に、荷物の運び込みをしていた。 するとエイミィは、ある事に気付いた。 ユーノとアルフの姿が、人間ではない……動物形態へと変化していたのだ。 「へぇ~、ユーノ君とアルフはこっちではその姿か。」 「新形態、子犬フォーム!!」 「なのはやフェイトの友達の前では、こっちの姿でないと……」 ユーノはフォレットへと、アルフは子犬へとその姿を変えていた。 二人とも、正体を隠しておかなければならない事情があるために、動物形態を取っていたのである。 そこへとミライもやってきたわけだが……そんな二人の姿を、彼はじっと見つめていた。 「ミライさん、何か……?」 「いや……今凄く、二人に親近感が沸いちゃったから。 正体を隠す為に変身する……分かるよ、その気持ち。」 「あ~……そういえば、似たような身の上だったわよね、あたし達。」 「わぁ~!! ユーノ君、フェレットモードひさしぶり~!!」 「アルフも、ちっちゃい……」 「あはは……」 なのははユーノを、フェイトはアルフを抱きかかえた。 するとそんな時、クロノから二人の友達が来たと言われ、二人は玄関へと走っていった。 リンディも折角だからと、一緒についていく。 その後、なのは達はフェイトの歓迎会の為に、リンディは挨拶の為に、翠屋へと向かっていった。 「早速仲良しですね、フェイトちゃん達。」 「前々から、ビデオメールとかはやってたからね。 初対面って言うのとはちょっと違うし……あれ?」 「エイミィさん、どうしたんですか?」 「あはは……艦長ったら、忘れ物しちゃってるよ。 これ、フェイトちゃん達に見せてあげなきゃ……ミライ君、折角だし届けてもらっていいかな?」 「はい、いいですけど……これって?」 「フェイトちゃんにとっての、最高のプレゼントだよ。」 ミライはエイミィからある小包を受け取った。 その中身が何なのか、それを聞くとミライも笑みを浮かべた。 きっとフェイトは、喜んでくれるに違いないだろう。 駆け足で、ミライはフェイト達を追いかけていった。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「ユーノ君、久しぶり~♪」 「キュ~」 「う~ん……あんたのこと、どっかで見た覚えがあるような……」 「ク~……」 「にゃはは♪」 翠屋の前のオープン席で、なのはとフェイト達は、友人のアリサ=バニングスと月村すずかの二人と過ごしていた。 ユーノとアルフも混じって、楽しげに四人は会話をしていた。 すると、そんな最中だった。 なのはは、小包を持ってこちらに近づいてくる人物―――ミライの存在に気付いた。 「あれ……ミライさん?」 「あ、いたいた。 フェイトちゃん、これリンディさんからの贈り物だよ。」 「え、私に……?」 「なのは、この人は?」 「初めまして、僕はヒビノミライって言うんだ。 お仕事の都合で、しばらくの間フェイトちゃんの家でお世話になってるんだ。」 「へぇ、そうなんですか……」 「ミライさん、これって?」 「開けてごらん。」 ミライに促され、フェイトは小包を開けた。 すると、その中にあったのは、最高のプレゼントであった。 なのは達三人が通っている、聖祥小学校の制服であった。 これが意味する事は、一つしかない……彼女達は、たまらず声を上げた。 その後、フェイトは店内でなのはの両親へと挨拶をしているリンディの元へと走っていった。 なのは達三人も、その後に続く……その後姿を、ミライはしっかりと見守っていた。 (……世界が違っても、やっぱり同じだ。 僕は、あんな笑顔を守りたい……兄さん達には少し悪いけど。 問題が片付いて、元の世界に戻れるようになるまで……精一杯、頑張ろう。 皆と一緒に……!!) 戻る 目次へ 次へ
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「ん……?」 グレイがこの世界に現れてから二日が経った。 彼が目覚めたのはベッドの上。それも宿屋にあるような上等なものではなく、どちらかと言うと簡素なものだ。 しばらくグレイはその場で停止する。どうやら状況を飲み込んだ上で、これからの行動を考えているのだろう。 この状況になるまでに憶えている事は、エロールによってこの世界に飛ばされたこと。続いて燃え上がる建物の中での戦闘。それからの記憶は無い。 これがどういう事かを考え、戦闘後に建物から連れ出され、ここに運び込まれたのだと結論付けた。 あの場にいた中でそれができそうなのは、白服の女、高町なのはただ一人。あの後で誰かが来たのでなければ、なのはに連れ出されたのだろう。 ふと、近くに来ていた看護婦が気付き、話しかけてきた。 「あら、目が覚めたんですね」 そう言うと、看護婦がグレイへと歩み寄ってくる。対するグレイは、その看護婦に問い、看護婦もそれに答えた。 「ここはどこだ? 何故俺はここにいる」 「ここですか? ここは聖王医療院です。あなたはミッド臨海空港でモンスターと戦って、その後ここに運び込まれたんですよ」 実に簡潔な回答。おかげで先程の考えが正しかったと証明された。 さて、グレイの頭には現在、一つの単語が引っかかっていた。『ミッド臨海空港』という単語である。 ここで言うミッドとは、おそらく彼の目的地であるミッドチルダ。つまり到着時の状況はともかく、目的地には到達できたという事らしい。 と、ここで看護婦がグレイに一つ伝言を伝えてきた。 「ああ、そうそう。あなたが目を覚ましたら伝えるように言われていたことがあったんでした。 目が覚めて、もし動けるようになったら時空管理局本局に来てほしいって、高町教導官からの伝言です」 ……本局とは一体どこだ? Event No.02『高町なのは』 目覚めてから数日後、グレイが本局ロビーの椅子に座っている。受付の順番待ちである。 普段から腰に差している古刀は無い。どうやら管理局で預かっているようだ。 先日の伝言には、本局に来たときに返すとの旨もあった。だから刀を返してもらう意味でもこちらには来る必要があったのである。 ちなみに他の荷物は病院を出る際に返してもらっている。 と、そんなことを言っている間にグレイの番が来たようだ。受付カウンターまで移動し、用件を伝える。 「高町教導官という人物に呼ばれて来た。取り次いでくれ」 「高町教導官に……ですか? ただいま確認しますので、少々お待ちください」 そう言うと受付嬢は通信モニターを開き、なのはへと連絡を取る。 こう言っては悪いが、いきなり現れてエースオブエースとまで呼ばれるような有名人に呼ばれたといわれても信用するのは難しい。 待つこと数十秒、モニターの向こうになのはの姿が映った。 「あ、高町教導官。あの実は、教導官に呼ばれたっていう男の人が来ているんですが……」 『男の人? その人って、灰色の長い髪をしてませんでしたか?』 「え? あ、はい。確かにそうでしたけど……」 その言葉になのはがしばらく考える。対する受付嬢は反応の無くなったなのはに怪訝そうな表情だ。 (もしかして、空港の時のあの人じゃあ……) 「あの……高町教導官?」 『あ、すいません。じゃあ、その人に待合室で待ってるように言ってくれませんか?』 受付嬢の表情が変わった。本当になのはに呼ばれていたのがそんなに驚くような事なのだろうか? とにかく、すぐに了承して通信を切り、グレイにその旨を伝えた。 「遅い……」 十数分後の待合室。グレイが暇そうな表情でそこにいた。 近くの本棚から本を取り出して読もうとするも、マルディアスとは文字が違うために読めない。 かといって剣の練習もこんな狭いところではできないし、術の練習もまた然り。 それ故に暇潰しすらできずに椅子に座っているほかなかった。他にできる事があるとすれば集気法で回復速度を上げるくらいか。 と、待合室のドアが開く。そこから現れたのはグレイにとっても見覚えのある女性だった。もっとも今は服装も髪型も違っていたが。 「えっと……怪我の具合はどうですか?」 「見ての通りだ。動ける程度には回復している」 まずはその女性、なのはがグレイの具合を聞き、それに答えを返す。 もっとも、動ける程度に回復したら来るよう言われていたので、ここに来ている時点である程度想像はつくのだが。 それを聞き、なのはがほっとしたような表情を浮かべて礼を言う。 「そうだ、あの時はありがとうございました」 急に礼を言われ、頭に疑問符を浮かべるグレイ。どうやら例を言われる理由がサッパリらしい。 どういうことか分からないので、なのはに直接聞くことにしたよう。 「……? 何の事だ?」 「ほら、あの時命がけでモンスターと戦ってたじゃないですか」 「その事か……あそこを出るのにあれが邪魔だっただけだ。感謝されるいわれは無い。 それより、俺を呼び出して何の用だ、高町教導官?」 グレイがそう聞くと、なのはの表情が変わる。今までの優しい顔から多少厳しい顔に。 「一つ、あなたにとって重要な話をするために呼びました」 話は空港火災の日まで遡る。 「なのはちゃん、ちょっと話があるんやけど」 「どうしたの?」 空港火災の日、そこで指揮を執っていた茶の短髪の女性『八神はやて』がなのはを呼び止めた。 表情からすると、何か真面目な話題なのだろう。いつになく真剣な顔である。 「まず、これを見てくれへん?」 そう言ってはやてが出したのは、空港内で確認された何かの反応のデータが映ったモニター。 それは人間だったりモンスターだったり、あるいは炎だったり色々である。 少しずつ時間を進めるような形でデータを進め、そしてある所で一時停止をかける。 「……ここや」 はやてが指差した箇所。その箇所には一秒前まで何の反応も無かった。一秒前までは。 だが、そこに突如人間一人分の反応が現れた。同じように転移の反応も同時に。 これが何を意味するか、理解に時間はかからない。 「え? これって、もしかして……」 「せや。転移魔法かそれとも次元漂流者かは分からへんけど、この時間に誰かがここに転移して来てるって事や」 そのまま再生ボタンを押し、その反応を追う。その反応はどうやら出口を探しながら移動しているようだ。 移動した軌道上のモンスターの反応は少しずつ減っていっている。その反応の主が倒したのだろうか? そしてある程度進んだ時点で再び一時停止。 「そして、この反応がなのはちゃんや」 そう言いながら、その反応の近くにある別の反応を指差す。どうやらこれがなのはの反応らしい。 近くには子供一人分の反応と、大物モンスターの反応もある。 「はやてちゃん、これ……」 なのははすぐに感づいたようだ。その反応の主の正体に。 そう言ったなのはに対し、はやても頷いて返した。 「これは多分、なのはちゃんが助けた灰色の髪の人の反応やろな」 そして、その詳細や目的を確かめるためになのはがグレイを呼び出し、今に至るという訳である。 「えっと……」 そういえばなのははグレイの名を知らない。そのため少し言いよどむ。 それを察したグレイが、自分の名を名乗った。 「まだ名乗っていなかったな。俺の名はグレイ」 「それじゃあ、グレイさん……ここは、あなたがいた世界ではありません」 この後の反応はなのはにも予想はできている。おそらく驚くか、あるいは現実を受け入れるのに多少考えるかの二択。 今までの次元漂流者の場合は、ほぼ全てがそのどちらかだったと、データで見たことがあったし、今まで見てきたのも大抵そうだったからだ。 だが、グレイの反応はそのどちらでもなかった。 「知っている。ミッドチルダだろう?」 その事に逆になのはが驚いた。 ここが異世界だと知っている上で、それで猶ここにいる。それはどういうことか。 いくつか思い当たる可能性はあるが、直接聞いたほうが早い。もしかしたら犯罪目的で違法に転移を行った可能性もある。 表情を若干厳しいものに変え、その疑問を口に出した。 「それはどういう事なんですか? 場合によっては、あなたを拘束しなければいけなくなるかもしれません」 これはどうやら、グレイがエロールから聞かされていた真相を話す必要があるようだ。というより、そうしないと面倒になりそうである。 意を決し、その真相を話した。 「――――俺が聞かされているのは、それで全部だ」 その話は、なのはにとっては信じがたい事であった。 何せ異世界の邪神が復活し始め、完全な復活のための力を蓄えるためにミッドチルダに来ているなどと聞かされても、どう反応すればいいのか分からない。 だが、グレイの目は嘘をついている目ではない。おそらくは真実なのだろう。 「じゃあ、一人でそのサルーインと戦っているんですか?」 相手が神だというのなら、一人で戦うのは無謀。なのに一人でいる……という事は、まさか一人で戦っているのだろうか。 なのははそう思い、グレイへと尋ねる。そして返ってきたのは否定だった。 「いや、仲間があと四人いる。この世界に飛ばされる時に散り散りになったようだがな。 ……そうだ、時空管理局……だったか? お前達の方で同じように見つけてはいないのか?」 飛ばされる時に散り散りになった四人の仲間。それがこの世界に来ているのならば、管理局の方で見つけているはず。 その事に一縷の希望をかけて同じように質問を返すが、なのはから返ってきたのは否定。 「……残念ですけど、あの日に転移してきたのはグレイさんだけでした」 「そうか……分かった」 やはり落胆しているのだろうか、グレイは声のトーンを幾分落として返す。 そうして次の瞬間には、席を立った。 「仲間を探す時間は無い。俺はサルーインを探しに行く」 それはあまりにもいきなりな事。そのせいでなのはは面食らい、のけぞる。 そのまま椅子ごと後ろに倒れるのを何とか踏みとどまり、何とかグレイを引き止めようとした。 あても仲間もないのに出発するという自殺行為を止めたいという一心で。 「待ってください! 出発するって言っても、あてはあるんですか?」 沈黙。 やはりあては無かったらしい。 「それに、相手は神なんですよね? 一人で戦って勝てる相手なんですか?」 さらに沈黙。 「あ、これは絶対無茶だ」という思考が頭を支配しているのだろう。だからといって他の手など思いつかない。 そういう事を考えていたグレイに対し、なのはがとある提案を持ちかけようとした。 「……グレイさん、管理局に協力する気は『なのはさん!』 が、急にオペレーターからの通信が入り、中断せざるを得なくなった。 「どうしたんですか?」 『例の海賊たちです! 次元航行艦が一隻襲われました!』 海賊? この世界にも海賊がいるのだろうか。 そのような疑問を浮かべるグレイを尻目に、通信で二言三言話したなのはが椅子から立ち上がる。 そしてグレイへと向け、謝罪の言葉を口にして部屋を飛び出した。 「ごめんなさい、グレイさん! 急ぎの用ができました! 後で続きを話すので、ここで待っててください!」 部屋に残されたグレイは、一人考えていた。 会話の内容からすると、その急ぎの用とは海賊退治だろう。 ならばある程度役に立つことはできるだろうし、何より待たされるのは御免だ。 そして結論……なのはに同行し、手を貸す。話の続きは移動中でも可能だろう。 その結論を出したグレイは、荷物袋から予備として持っていた武器『アイスソード』を取り出し、それを背に負って駆け出した。 戻る 目次へ 次へ
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AMF内―― 幾重にも施された結界により 飛行能力を封じられた高町なのはの前に立ちはだかる法衣の男 死力を尽くした戦闘は、既に2時間にも及んでいた 尋常ならざる相手――瞬き一つで絶命させられかねない―― 目の前の男に高町なのはは かつて無い戦慄を覚える 自分より強い敵なんていくらでもいた 武装隊、そして戦技教導隊での過酷な鍛錬 どのような強大な敵を前にしても、恐れない………恐れないだけの事をしてきたつもりだった 「貴方が今までどんな思いをして生きてきたのか、私は知らない… しかし、それでもいつものように戦えない焦燥感 AMFや空戦を封じられたという戦力的なものでは断じてなかった 高町なのはは混乱していた 目の前の男は自分を「悪」と断じている 他人の不幸が愉悦とまで 倒すべき悪に違いない相手……彼を放っておけば、間違いなく多くの人が災厄に見舞われる 故に倒す……救うために 正しい事をしてる、迷いもない、いつもと同じだ なのに――― 「もし貴方が、不幸な過去を背負っていて それで歪んでしまったのならば 私達の言葉は、今は甘い戯言に聞こえるのかも知れない…… 」 彼女は、目の前の男を計れないでいる 今まで会った敵や犯罪者、「狂気」 「悲しみ」 「憎しみ」 歪んだ思いを抱いたものに常に感じてきた負の感情 それが目の前の男から感じられない いや、不吉なのだ 不吉な気配を漂わす男なのは間違いない だが、しかし………それはどこか純粋で―― 一寸も気を緩める事なく、言葉を紡ぐなのは 「でもね……それでも歩んできた道がある!」 桃色の魔力の奔流が 気を吐くような咆哮と共に翻る 「築いてきた世界がある! 守ってきたという誇りがある!! 信じてきた正義がある!!! 」 と、同時に30を超える魔力の弾丸を、目の前の男に叩き込む 「だから他人の不幸が愉悦だなんて言う人は許さない! 絶対に負けない!! 」 非殺傷とはいえ、相手の魔力、活動力を削り取るスフィアの直撃 ただの人間ならば、これでKO 耐えられるハズがない――― ………だがしかし、なのはは微塵も構えを崩さない 果たして硝煙の中 何事も無かったように立っているのはヒトのカタチをしたナニカ―― 「思い上がるな 小娘 」 「ッ!?? 」 警戒していたにも関わらず、懐に入られた 刹那の一瞬 神速を超えた躍歩からの頂肘が なのはの鳩尾を穿つ 「あ、 ぐッ !!!?? 」 「日の当たる道しか歩んで来なかった者が 道 を語るな 」 そう、彼は既に人間ではなかった 聖杯の力を得たスカリエッティによって現世に蘇った サーヴァントの如き存在 でありながら、かつて馴染んだアンリマユの力を切り取り スカリエッティの支配をも跳ね除けた魔人 それが今の彼である 「祝福された世界しか知らぬ者が 世界 を語るな 」 「つッッッ! レイジングハートッ! バリアを捨ててBJを強化ッッ 」 重装甲Sランク魔道士の神域の守りは三重の鉄壁 生半可な事では突破出来ない 故に いかな絶技とはいえ、生身の拳が なのはに届く事などあり得ない しかし、目の前のこの男は聖杯の泥の 侵食 を持ってバリアを犯し 八極の内功を持って フィールドとBJの上から、なのはの肉体を削っている 100%には程遠い……80%は威力を殺された打 しかし、その20%で十分なのだ 数分違わず急所に打ち込まれる一撃必殺の絶招、その20%の衝撃が もともと頑健でない、なのはの身体を貫くには十分な威力なのである 「踏み躙られた事もない者が 誇り を語るな 正義の本質も知らぬ者が 正義 を語るな 」 正中線に矢継ぎ早に叩き込まれる殺撃の崩拳 ミリ単位で急所を外すのが精一杯のなのは 「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……は、 、ぅ……」 「偽善の極みだ」 「バインドッッ! 」 捕らえられない 単純な速さならフェイトの方が断然速い 威力ではヴィータに遠く及ばない しかし、彼女は知る 鎧も盾も持たない身で ただひたすらに己の五体のみを鍛え上げた者の技を その踏み込みの鋭さを 「ッッ (距離をッ この間合いはダメッ…) 」 「この期に及んで、まだお前は殺さずに私を退けるつもりか 以前にも、お前のように青臭い正義を語る小僧と戯れたが……」 「ッレイジングハート!! フラッシュム――」 遅い 黒鍵にて逃げ道を塞がれた中 練られた渾身の一撃により 吹き飛ばされ、壁に叩きつけられるなのは 「あうぅっっ!!! 」 「まだ、奴のほうが……救える者と救えない者の分別はあったぞ」 ずる、と崩れ落ちるなのは 視界が定まらず、意識が混濁する かつて悪魔と罵られた事を思い出した 憎しみの 恐れの 感情をぶつけられた事もあった 悲しかった 杖を持つ手が震えた でも感情を殺して耐えた それが皆を救える道だと信じて耐えた 名前を呼んで貰った 嬉しかった 諦めなかった 絶対に諦めなかった そうしたら救えた 嬉しかった どんなに辛くて苦しくても その先に何かを見いだせるのなら 耐えられる ……進めるんだ それが彼女がこの道を選んだ理由 そして全てだった ガムシャラに突き進み、どんな辛い訓練にも耐え、ひたすらに高みを目指して飛んだ そして今 自分はここに立っている ならば―――― この男は何なのだろう 自ら悪を担っておいて何を求めているのか 救いも幸せな未来も 自分の身すら求めずに どんな世界を求めているのか 意識が、崩れ落ちる―――寸前で踏み止まる 息が出来ない 打ち込まれた箇所が痛い 口内から血の味がする だが、男とて無傷ではない あらゆる攻撃を弾き返してきた、なのはのBJを素手で殴り続けているのだ 叩き付けた拳から血が滴っている 「何が、、いけないの…?」 「なに? 」 「全てを救いたい! そう考える事の何がいけないの!!? 」 裂帛の気合と共に、愛杖を振るうなのは 先端のACSが翻り、言峰の身体を薙ごうとするが 「皆が皆、初めから幸せだったわけじゃない 辛い目にあったりキツイ思いをしたり…」 それは空を捕らえるばかり 接近戦における錬度 技術の違いは圧倒的だった それでもなのはは引かない 男の虚無の瞳を見据えて叫ぶ 「でも皆、頑張って幸せな世界を作ろうとしてるんだよ! 誰もが優しい時間の中で過ごせる 誰も傷つけ合わない 争わなくて良い世界を! 」 至近距離でシューター 交わす男 拳打による致命傷 かろうじて外すなのは 魔弾と魔拳の応酬 もはや、それは常人の視認すら許さない域での戦闘 「大事な人のため 守りたいもののためにっ!! 」 「黙れ 」 男は遮る まるで汚泥なるものを見るような目で彼女を一瞥し 「そのような虫唾の走る妄言を、これ以上私に聞かせるな」 「…………… 」 男に初めて、感情のようなモノを見た それは嫌悪 「一つだけ忠告してやろう」 「…………」 「その考えでは世界の半分の人間しか救えない お前の側にいる人間だけだ」 「……」 「お前は自分が、裁かれる側から何と呼ばれているか分かっているのだろう? 管理局の悪魔 法の番犬、、」 ズキンと―――胸が痛む 「分かってる……それでも、例え恨まれても…」 そう続けようとした言葉を―― 「正義を為して、何故悪の称号を携わる? お前はそれに何の疑問も抱かないのか? 貴様に撃たれ 捕らえられ 誇りを失い 首輪を繋がれ 怨嗟の声を上げる者を尻目に――それでも管理局とやらの尖兵になるか…… はたまた 牢に繋がれた不心得者達に 今 貴様が説いたゴミのような説法を得々と聞かせてまわるか……」 更に男に遮られる 「狗の人生だな…」 自分 を 自分の人生 をはっきりと否定される言葉…… 侮蔑に、屈辱に歯を食いしばる いつもの彼女なら、こんな言葉に揺れたりはしない しかし、この男の言葉は 一つ一つが鉄鎖の呪いのようで… 問答無用で薙ぎ払う事がどうしても出来ない 「じゃあ――大事な人が傷つけたり傷ついたり争ったりするのを見過ごせって言うの? 私は……そのための力が欲しかった 子供の頃、身近な人が傷ついても何も出来ない そんな自分が嫌いで………だから――」 思いを喉から搾り出す 目の前の男に負けないように 折れないように 「貴方こそそれだけの力があるのに、どうしてそれを良い事に向けないの!? どれだけの物が救えるか、どれだけの事が出来るか分からないのに」 「争いを無くしたいのなら人間全てを滅ぼす事だ」 「なっ……………… 」 絶句して立ち尽くす 戦闘中だという事も忘れて、呆然と相手の顔を見る 「はっきり言ってやる お前の進む道に未来などない 誰も傷つかなくて良い世界? そんなモノがこの世界のどこにある?」 降り注ぐ言葉はあまりにも無慈悲で、救いがなくて―― 「人は黙っていても殺し合い憎みあう ソレは理想として成立しない 10年……戦場で力を振るい続けても、まだその真理に気づかないとは …………………………そうか」 何かに気づいたように男は笑う 子供が昆虫をカイタイする時のような 純粋で、無垢な残酷さを思わせるそんな表情―― 「お前も、、なのだな……お前も 奴らと一緒か クク……ククク 哀れすぎて笑えるぞ小娘 ようやくこのくだらない茶番に愉悦を感じるようになった」 取り出したる黒鍵は左右6本 悪魔と呼ばれ、正義を為してきた若き英雄 その前に立つのは、道を見失い彷徨った末に 己の本質に辿り着いた本物の純粋悪 「……………そうやって、、ずっと世界を敵に回すつもり?」 「私は世界の敵として生まれた 初めからな」 「やり直せるんだよ……いくらでも なのに、いつまで、、、いつまで続けるつもりなの!」 「死してなお――だ 管理者よ」 「貴方はッ!!!」 桃色の光が周囲を覆い尽くす 高町なのはの最終リミッター 限界を超えた魔力行使 己の肉体を超えた負荷と、魔道士の命である魔力を引き換えにした 一撃必殺の砲殺戦闘モード 「ブラスターモード! リリース!!!!」 その封印が、今解かれる 黒鍵の投擲、と同時に炸裂弾の如き激しさで肉薄しようとする その男の周囲、あらぬ方向から飛来する短剣のような何か 「ぬうっ!?? 」 男の前進を止めたもの それは砲撃魔道士・高町なのはが、クロス~ミドルレンジでの弱点を 克服すべく選んだ、空間制圧の切り札 五門ものビット――― それが縦横無尽に飛び交い、男の動きを制限していく 「悪魔と呼ぶならそれでもいい――」 黒鍵がフィールドに阻まれ力なく堕ちる 仁王立ちに構えるなのは、男に対し かつてない闘志を奮い立たせ…… 「私の中の 悪魔 が―― この世全ての悪 を、、、薙ぎ払ってあげる!!」 剥き出しの感情で吼えた……ケモノのように なのはを知る者が、今の彼女を見て それがなのはだと信じられるだろうか ここまで感情をあらわにした事など、、彼女自身の人生の中でも数えるほど 男も感じている もはや、眼前の敵に気後れなどない 受けた傷を 痛んだ身体を まるで意に返さぬ その威圧感 その、並のサーヴァントを凌駕し兼ねない 強大な魔力の塊を前にして―― 「そうだ 殺すつもりで来い その力で私の存在を否定して見せよ! 最早、双方の死を以って以外に決着はあり得ないのだから」 男は嘲う 壮絶に 「殺さないよ………貴方の思い通りにはならない ―――でも………」 弾けたように飛ぶのは男 敵の中心線を穿つ 狙うはそれだけ 「かなり痛いから覚悟してッ!!!!」 対してなのはも下がる気はない 八極の震脚じみた踏み足で地面を噛み、迎え撃つ 誰も気づかない なのはの目からこぼれた、一筋の涙、その意味 それは決して相容れない者との邂逅による絶望か 不甲斐無さか 今は分かり合えないのかも知れない 恐らくは自分よりも遥かに多くの物を見、聞き そして今に至ってきたであろうこの男 そんな男と自分とでは、今の段階では話をする事さえ出来ない でも、負けてしまえば救えない 折れてしまえば全てが終わる それは変わらないのだと自分に言い聞かせ 「エクセリオン・ ・ ・ ・ ・ ・バスタァァァ!!!!!!」 全力全開の砲撃を男に放つ 戦いはまだ、始まったばかりである 小ネタへ
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第9話「仮面の男」 「タリャアアァァァァッ!!」 「グゥ……ッ!!」 M78星雲、光の国。 その訓練場において、二人の赤い巨人が対峙していた。 真紅の若獅子ウルトラマンレオと、その師ウルトラセブン。 レオはセブン目掛けて勢いよく拳を繰り出すが、セブンはそれをタイミングよくガード。 そのまま、セブンは拳を打ち上げてレオの腕を大きく払った。 「ジュアァッ!!」 「イリャァァッ!!」 そのまま、がら空きになったレオの胴目掛けてセブンが蹴りを繰り出す。 だが、レオは素早く膝と肘を動かし、その一撃を受け止めた。 攻防一体の技術、蹴り足挟み殺し。 セブンの足に激痛が走る……しかしセブンは、ここで引かなかった。 強引に足を捻って技から脱出し、そのままレオの喉求目掛けラリアットをかましにいったのだ。 しかし、レオは大きく体を反らしてこの一撃を回避。 そのままオーバーヘッドキックの要領で、セブンの肩に一撃を入れた。 「ジュアッ!?」 とっさにセブンは、後ろに振り返りレオに仕掛けようとする。 だが、振り向いた時には……レオの拳が、セブンの目の前にあった。 勝負はついた……レオは拳を下ろす。 セブンは首を横に振り、溜息をついた。 「参った……やっぱり格闘戦になると、お前の方がもう俺より上だな。」 「ありがとうございます、隊長。 でも、途中で俺も危ないところがあったし……」 「おいおい……隊長はもうやめろと言っただろう?」 「あ……はい、セブン兄さん。」 一切の光線技や超能力を使わない、格闘戦のみによる組み手。 勝負は、レオの勝利に終わった。 こと格闘戦において、今やレオは、光の国でも最強レベルの戦士の一人になる。 しかしそれも、全てはセブンがいたからこそである。 レオはかつて地球防衛の任務に就いた際、セブンから戦う術を教わったのだ。 当時のレオは、光線技を殆ど使えなかった為に、格闘技術をとことん磨かされていた。 時には、「死ぬのではないか」と言いたくなる程の、とてつもなく辛い特訓もあった。 だがそれも……地球防衛の為に、やむを得ずのことであった。 セブンはその時、ある怪獣との戦いが原因で、戦う力を失ってしまっていたのだ。 その為、まだ未熟であったレオを一人前にする事で地球を守ろうと、あえて心を鬼にして接していたのである。 そしてその末、今やウルトラ兄弟の一人となるほどにまで、レオは成長を遂げたのだ。 ちなみにレオがセブンの事を隊長と呼ぶのは、その時の名残である。 「でも、光線技やアイスラッガーを使われたら、どうなっていたか……」 「はは……じゃあ、今日はこれまでだな。 後少ししたら、交代の時間だ……それまで体を休めておけ」 「はい。」 光の国では今、二人一組によるメビウスの捜索が行われていた。 もうしばらくしたら、セブンとレオは前の組との交代時間である。 それまで体を休めるべく、二人は一息つこうとした。 だが……そんな時だった。 訓練場の上空へと、文字―――ウルトラサインが出現したのだ。 「ウルトラサイン……ゾフィー兄さんからのメッセージだ!!」 「『メビウスかららしきウルトラサインを、見つけることが出来た』……!!」 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「ちょ、やめろ!! アリア、何とかしてくれ~!!」 時空管理局本局。 クロノとエイミィは、ユーノを連れてある人物の元を訪れていた。 クロノに魔術の基礎を叩き込んだ師匠、リーゼ=ロッテとリーゼ=アリアの二人。 この二人は、グレアムの使い魔でもある。 久々の再会という事で、ロッテはクロノにじゃれ付いている訳で、エイミィ達はそれを面白そうに眺めている。 クロノからすれば、はっきり言って迷惑この上ないのだが。 「……なんで、こんなのが僕の師匠なんだ。」 「あはは……それで、今日の用事はなんなの? 美味しそうなネズミっ子まで連れてきて……」 「っ!?」 身の危険を感じ、ユーノが顔を強張らせた。 リーゼ姉妹は、ネコを素体として作られた使い魔。 フェレットモードのユーノからすれば、天敵とも言える存在なのだ。 人間状態である今は、何の問題も無いが……万が一動物形態へと姿を変えたら、どうなる事やら。 「闇の書の事はお父様からもう聞いてるけど、やっぱりそれ関連?」 「ああ……二人は、駐屯地方面には出てこれないか?」 「私達にも、仕事があるからね。 そっちに出ずっぱりって訳にはいかないよ。」 「分かった……いや、無理ならそれはそれでいいんだ。 今回の用件は、彼だからな。」 「?」 「ユーノの、無限書庫での捜索を手伝ってやってくれないか?」 「無限書庫……?」 「今から、早速頼みたいんだ。 ユーノを案内してやってくれ。」 「うん、そういう事ならいいけど……」 「ユーノ君、二人についていって。」 ユーノはロッテとアリアの二人に連れられ、無限書庫へと向かう。 無限書庫とは、様々な次元世界の、あらゆる書籍が治められた大型データベース。 幾つもの世界の歴史が詰まった、言うなれば世界の記録が収められた場所。 まさしく、名が示すとおり無限の書庫である。 しかし……文献の殆どは未整理のままであり、局員がここで調べ物をする際には、数十人単位で動かなければならない。 必要な情報を一つ見つけるだけでも、とてつもない作業になるのだ。 ユーノはそこへと足を踏み入れた時、正直度肝を抜かれたものの、すぐに冷静さを取り戻す。 クロノが自分に頼むといった理由が、これでやっと分かったからだ。 「成る程、確かに僕向けだね……」 ユーノは術を発動させ、とりあえず手近な本を十冊ほど取り出す。 複数の文章を一度に同時に読む、スクライア一族特有の魔術の一つ。 これを駆使すれば、大幅に調査時間を短縮する事が可能である。 その術を目にし、ロッテとアリアは感嘆の溜息を漏らした。 「へぇ~、器用だね……それで中身が分かるんだ。」 「ええ、まあ……あの、一つ聞いてもいいですか?」 「ん、何かな?」 「……リーゼさん達は、前回の闇の書事件の事、見てるんですよね?」 「あ……うん。 ほんの、11年前の事だからね。」 ユーノは、前回の闇の書事件について詳しく知ってるであろう、二人に尋ねてみた。 闇の書の情報を集める上で、この話はどうしても聞いておきたかった。 ただ……クロノ達には、それを聞けない理由があった。 先日、局員の一人から聞いてしまったのだが…… 「……本当なんですか? クロノのお父さんが、亡くなったって……」 「……本当だよ。 私達は、父様と一緒だったから……近くで見てたんだ。 封印した筈の闇の書を護送していた、クライド君が……あ、クロノのお父さんね。 ……クライド君が、護送艦と一緒に沈んでくとこ……」 「……すみません。」 「ああ、気にしないで。 そういうつもりで聞いたんじゃないってのは、分かってるから。」 やはり、悪い事を聞いてしまった。 これ以上、辛い過去を思い出させるわけにはいかないと思い、ユーノは話を打ち切った。 すると、その時だった。 ユーノはある本のあるページを見て、ふと動きを止めた。 「え……?」 「ユーノ君、どうしたの?」 「まさか……これって……!!」 術を中断し、ユーノは直接本を手に取った。 そこに記載されていたのは、ある世界の太古の記録。 光の勢力と闇の勢力との戦いの記録だった。 こういった戦い自体は、多くの次元世界の歴史中にもある為、なんて事は無かった。 だが……問題は、その本の挿絵にあった。 挿絵に描かれている戦士の姿……それは、紛れも無くあの戦士と同じものであった。 「どうして、ウルトラマンダイナが……!?」 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「たっだいま~」 「おかえりなさ~い。」 それから、しばらくした後。 まだ本局で用事のあるクロノを残して、エイミィは一人ハラオウン家へと帰宅した。 ちなみにリンディも、別件で先程本局へと出向いた為、不在である。 エイミィは帰り際に近所のスーパーで買い物を済ませていたようであり、その手には買い物袋があった。 フェイトとミライ、それに遊びに来ていたなのはの三人で、早速冷蔵庫に食品を入れ始める。 「艦長、もう本局に出かけちゃった?」 「うん、アースラの追加武装が決定したから、試験運用だってさ。」 「武装っていうと……アルカンシェルか。 あんな物騒なの、最後まで使わなければいいけど……」 「クロノ君もいないし、それまでエイミィさんが指揮代行ですよね。」 「責任重大よね~……」 「ま、緊急事態なんて早々起こったりは……」 その時だった。 ハラオウン家全体に、緊急事態を告げる警報音が鳴り響いた。 エイミィの動きが止まり、その手のカボチャがゴロリと床に落ちる。 言った側からこんな事になるなんて、思いもよらなかった。 すぐにエイミィはモニターを開き、事態の確認に移る。 そこに映し出されたのは、ヴォルケンリッターの二人……シグナムとザフィーラ。 「文化レベルはゼロ、人間は住んでない砂漠の世界だね…… 結界を張れる局員の集合まで、最低45分はかかるか……まずいな……」 「……フェイト。」 「うん……エイミィ、私とアルフで行く。」 「そうだね……それがベストだね。 なのはちゃんとミライ君はここで待機、何かあったらすぐ出れるようにお願い。」 「はい!!」 フェイトは早速自室へと戻り、予備のカートリッジを手に取る。 アルフがザフィーラの相手をする以上、シグナムとの完全な一騎打ちになる。 先日の戦いでは、超獣の乱入という事態の為に勝負はつけられなかった。 今度こそ、シグナムに勝利する……フェイトは強く、バルディッシュを握り締めた。 「いこう……バルディッシュ。」 『Yes sir』 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「くっ……!!」 その頃。 二手に分かれ単独行動に移ったシグナムは、現地の巨大生物を相手に苦戦を強いられていた。 先日現れたベロクロンよりも、その全長はさらに巨大。 シグナムは一気に片を付けようと、カートリッジをロードしようとする。 だが、その直後……背後から、十数本もの触手が一斉に出現した。 まさかの奇襲に反応しきれず、シグナムはその身を絡み取られてしまう。 「しまった!!」 何とかして逃れられないかと、シグナムは全身に力を込める。 だが、力が強く振りほどく事が出来ない。 そんな彼女を飲み込もうと、巨大生物は大きく口を開けて迫ってきた。 ザフィーラに助けを求めるにも、今は距離が離れすぎている。 こうなれば、体内からの爆破しかないか……そう思い、覚悟を決めた、その矢先だった。 『Thunder Blade』 「!!」 上空から、怪物へと光り輝く無数の剣が降り注いだ。 とっさにシグナムが空を仰ぐと、そこにはフェイトの姿があった。 フェイトはそのまま、剣に込められた魔力を一気に開放。 剣は次々に爆発していき、怪物を一気に吹き飛ばした。 触手による拘束も解け、シグナムは自由になる。 『ちょっとフェイトちゃん、助けてどうするの!!』 「あ……」 「……礼は言わんぞ、テスタロッサ。 蒐集対象を一つ、潰されたんだからな……」 「すみません、悪い人の邪魔をするのが私達のお仕事ですから……」 「ふっ……そうか。 そういえば悪人だったな、私達は……預けておいた決着は、出来るならもうしばらく先にしておきたかった。 だが、速度はお前の方が上だ……逃げられないのなら、戦うしかないな。」 「はい……私も、そのつもりで来ました。」 空から降り、二人が地に足を着ける。 シグナムはポケットからカートリッジを取り出し、怪物との戦いで失った分を補充し、構えを取った。 それに合わせて、フェイトもバルディッシュを構える。 しばしの間、二人の間に静寂が流れる……そして。 「ハァッ!!」 「うおおぉぉっ!!」 勢いよくフェイトが飛び出し、それに合わせてシグナムも動いた。 二人のデバイスがぶつかり合い、火花を散らす。 すぐさまフェイトは一歩後ろに下がり、再び一閃。 シグナムも同様に、カウンター気味の一撃を放つ。 直後、とっさに障壁が展開されて互いの攻撃を防ぎきった。 「レヴァンティン!!」 「バルディッシュ!!」 『Schlange form』 『Haken form』 二人はそのまま間合いを離すと、カートリッジをロードしてデバイスの形態を変えた。 フェイトは大鎌のハーケンフォームに、シグナムは蛇腹剣のシュランゲフォームに。 シグナムは勢いよく腕を振り上げ、レヴァンティンの切っ先でフェイトを狙う。 フェイトはそれを回避すると、ハーケンセイバーの体勢を取って静止。 その間に、レヴァンティンの刃が彼女の周囲を包囲する。 しかし、フェイトは動じることなくシグナムを見据え……勢いよく、バルディッシュを振り下ろした。 「ハーケン……セイバー!!」 「くっ!!」 光の刃が一直線に、シグナムへ迫ってゆく。 シグナムはとっさにレヴァンティンの刃を戻し、その一撃を切り払う。 その影響で、フェイトのいた場所が一気に切り刻まれ、凄まじい砂煙が巻き起こった。 だがその中から、三日月状の影―――二発目のハーケンセイバーが、その姿を見せてきた。 一発目との間隔が短すぎる為に、切り払う事は出来ない。 すぐにシグナムは、上空へと飛び上がる……が。 「ハァァァァッ!!」 「何っ!?」 上空には、既にフェイトが回り込んでいた。 バルディッシュの刃を、シグナム目掛けて勢いよく振り下ろしてくる。 だが、シグナムはこの奇襲を思わぬ物を使って回避した。 それは、レヴァンティンの鞘。 彼女にとっては、鞘もまた立派な武具だった。 これは流石に予想外だったらしく、フェイトも驚かざるをえない。 その一瞬の隙を突き、シグナムはフェイトを蹴り飛ばした。 だが、フェイトも一歩も引かない。 落下しながらも、カートリッジをロード……バルディッシュの矛先を、シグナムへと向ける。 『Plasma lancer』 「!!」 光の槍が放たれ、シグナムへと真っ直ぐに迫る。 彼女はとっさに剣を通常形態へと戻し、鞘とそれとを交差させる形で防御。 一方フェイトも、着地と同時にバルディッシュを通常形態へと変形させた。 両者がカートリッジをロードさせる。 フェイトが前方へと魔方陣を展開し、魔力を集中させる。 シグナムがレヴァンティンを鞘に収め、魔力を集中させる。 「プラズマ……!!」 「飛龍……!!」 「スマッシャアアァァァァァッ!!」 「一閃っ!!」 膨大な量の魔力が、同時に放たれた。 その威力は、完全な互角。 両者の一撃は真正面から真っ直ぐにぶつかり合い、そして強烈な爆発を巻き起こした。 それと同時に、二人が跳躍する。 「ハアアァァァァッ!!」 「ウアアアアアァァァァァッ!!」 空中で、バルディッシュとレヴァンティンがぶつかり合った。 雷光の魔道師と烈火の将。 二人の実力は伯仲……完全な五分と五分だった。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「ヴィータちゃん……やっぱり、お話聞かせてもらうわけにはいかない? もしかしたらだけど……手伝える事、あるかもしれないよ?」 丁度、その頃。 別の異世界では、なのはとヴィータが対峙していた。 フェイトが向かって間も無く、ヴィータがこの世界に出現した為、なのはが向かったのだ。 なのはは今、ヴィータと話が出来ないかと思い、相談できないかと持ち掛けていた。 だが、ヴィータはそれを受け入れようとしない。 「五月蝿ぇ!! 管理局の言う事なんか、信用出来るか!!」 「大丈夫、私は管理局の人じゃないもの。 民間協力者だから。」 (……闇の書の蒐集は、一人につき一回。 こいつを倒しても、意味はない……カートリッジも残りの数考えると、無駄遣いできねぇし……) 「ヴィータちゃん……」 「……ぶっ倒すのは、また今度だ!!」 「!?」 「吼えろ、グラーフアイゼン!!」 『Eisengeheul』 ヴィータは魔力を圧縮して砲丸状にし、それにグラーフアイゼンを叩きつけた。 直後、強烈な閃光と爆音がなのはに襲い掛かった。 足止めが目的の、言うなれば魔力で作ったスタングレネード。 効果は十分に発揮され、なのはの動きを止める事に成功する。 その隙を狙い、ヴィータはその場から急速離脱する。 「ヴィータちゃん!!」 『Master』 「うん……!!」 レイジングハートが、砲撃仕様状態へと姿を変化させる。 なのははその矛先を、ヴィータへと向けた。 一方のヴィータはというと、かなりの距離を離した為か、流石に余裕があった。 この距離からならば、攻撃は届かないだろう。 そう思っていた……が。 「え……!?」 『Buster mode, Drive ignition』 「いくよ、久しぶりの長距離砲撃……!!」 『Load cartridge』 「まさか……撃つのか!? あんな、遠くから……!!」 『Divine buster Extension』 「ディバイイィィィン……バスタアァァァァァァァッ!!」 「っ!?」 絶対に届く筈が無い。 そんな距離から、あろうことかなのはは撃ってきたのだ。 そして彼女の照準には、寸分の狂いも無い。 放たれた桜色の光は、まっすぐにヴィータへと向かい……直撃した。 ズガアアァァァァァン……!! 「あ……」 『直撃ですね。』 「……ちょっと、やりすぎた?」 『いいんじゃないでしょうか。』 思ったよりも威力が出てしまっていた事に、なのはも少し驚いた。 まあレイジングハートの言うとおり、非殺傷設定にはしてあるから、大丈夫ではあるだろう。 少し悪い気はするが、これでヴィータが気でも失っていたら、連れ帰るまでである。 数秒後、徐々に爆煙が晴れていくが……その中にあった影は、一人ではなかった。 「あれは……!!」 「……」 ディバインバスターは、ヴィータには命中していなかった。 先日クロノと対峙していた、あの仮面の男が姿を現れていたのだ。 仮面の男は障壁を張って、直撃からヴィータを守っていた。 なのはもヴィータも、呆然として仮面の男を見るしかなかった。 「あ、あんたは……」 「……行け。」 「え……?」 「闇の書を、完成させろ……」 「!!」 仮面の男の言葉を受け、ヴィータがこの世界から離脱しようとする。 とっさになのはは、二発目の長距離砲撃に入ろうとする。 だが、それよりも早く仮面の男が術を発動させた。 この距離からの発動は、通常ならばありえない魔法―――バインド。 光が、なのはの肉体を拘束する。 「バインド……こんな距離から!?」 『Master!!』 とっさになのはは魔力を集中させ、バインドの拘束を解いた。 しかし、時既に遅し……その場には、ヴィータも仮面の男も姿もなかった。 身動きを封じられた隙に、逃げられてしまったのだ。 『Sorry, master』 「ううん……私こそごめんね、レイジングハート。 エイミィさん、すぐそっちに戻りま……!?」 仕方が無い。 そう思い、帰還しようとした……その矢先だった。 突然、強烈な地震が発生したのだ。 空に浮いていた為に、なのはには一切影響は無いが…… 「地震……驚いたぁ。」 『待って、これ……なのはちゃん!! 急いで、そこから離れて!!』 「え……?」 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― (ここに来て、まだ……目で追えない攻撃がきたか……!! 早めに決めないと、まずいな……!!) (クロスレンジもミドルレンジも、圧倒されっぱなしだ……!! 今はスピードで誤魔化せてるけど、まともに喰らったら叩き潰される……!!) フェイトとシグナムの一騎打ちは、更に激化していた。 スピードで勝るフェイトと、技術で勝るシグナム。 どちらも、決め手になりえる一撃を相手に打ち込めないままでいた。 フェイトにとっては、なのはとの一騎打ち以来の激戦。 シグナムにとっては、何十年ぶりとも言える激戦。 ここまでの苦戦を強いられるのは、お互いに久々だった。 勝負をつけるには、やはり切り札を使うしかないだろうか。 (シュトゥルムファルケン、当てられるか……!!) (ソニックフォーム、使うしかないか……!!) 二人が同時に動く。 次の一撃でもなお決められなければ、もはや使うしかない。 奇しくも、二人の思いは一致していた。 しかし……この直後、思わぬ事態が起こった。 フェイトの胸を……何者かの腕が、貫いた。 「あっ……!?」 「なっ!?」 シグナムは、フェイトの背後に立つ者の姿を見て驚愕した。 その者とは、先程までヴィータと共にいたはずだった仮面の男だった。 彼がヴィータの元に現れたのは、ホンの数分ほど前の出来事。 この世界に転移するまで、最低でも十数分かかる……ありえないスピードである。 いや、この際それはどうでもいい。 今の最大の問題は、彼がフェイトに攻撃を仕掛けたという事実。 フェイトは、完全に意識を失っている。 シグナムはそれを見て、最悪の事態―――貫手によるフェイトの殺害を、考えてしまった。 「貴様!!」 「安心しろ、殺してはいない。」 「なんだって……なっ!?」 「使え。」 男の手のは、フェイトのリンカーコアが握られていた。 使えという言葉の意味は、勿論決まっている。 フェイト程の魔道師のリンカーコアを手に出来たとあれば、一気に相当数のページが埋まる。 シグナムは、こんな形での決着は望んでいなかった。 だが……自分は、はやてを救う為ならば、如何なる茨の道をも歩もうと決意したのだ。 全ては彼女の為……ならば、敢えて汚れ役となろう。 『ザフィーラ、テスタロッサのリンカーコアを摘出する事が出来た。 ヴィータも引き上げたようだし、我々もここで引くぞ。』 『心得た……テスタロッサの守護獣には?』 『ああ、テスタロッサを迎えに来るよう伝えておいてくれ。 それまでの間は……私が、彼女を見ておこう。』 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 『待って、これ……なのはちゃん!! 急いで、そこから離れて!!』 「え……?」 エイミィが、切羽詰った声でなのはに告げた。 解析してみた所、この地震はある自然災害を併発する可能性が極めて高いと出たのだ。 それは、なのは達の知る自然災害の中でも、最高クラスの危険度を持つもの。 『近くの火山が、もうすぐで噴火しちゃうの!!』 「ええっ!?」 火山の噴火。 テレビなどで何度かその光景は目にしてきたが、それが齎す被害は凄まじいものがある。 この世界には文明が存在しない為、犠牲者は出ないのがせめてもの救いだろう。 すぐになのはは、エイミィに指定された火山から離れる。 それから数十秒後……爆音を上げ、山からマグマが噴出した。 ドグオオオオォォォォン……!! 「うわっ……凄い……」 灼熱色の光が、辺り一面を照らす。 初めて目にするその光景に、なのははただただ呆然とするしかなかった。 それは、モニター越しに見ていたエイミィとミライも同じだった。 しばらくして、噴火は収まるが……その直後。 モニターからけたたましい警報音が鳴り響いた。 なのはの耳にも、それは届いている。 『これって……!!』 「エイミィさん、何があったんですか?」 『気をつけて、なのはちゃん!! 何かが、火山の下から出てこようとしてる!! これは……現地の、大型生物……!?』 「大型生物って……もしかして、この前の超獣みたいな奴……?」 その、次の瞬間だった。 山の麓から、唸りを上げてそれは出現した。 全身が蛇腹のような凸凹に覆われた、色白の怪獣。 足元から頭頂部に向かって体全体が細くなっていくという、特徴的な体躯。 ミライはその姿を見て、驚愕した。 出現したのは、かつて彼が戦った経験のある相手。 どくろ怪獣……レッドキング。 『レッドキング!? そんな、あんなのが異世界にも生息しているなんて……!!』 「ミライさん、もしかして……あの怪獣って、かなり強いんですか?」 『うん、僕も直接戦ったことがあるから分かる。 それに、兄さん達もそれなりに苦戦させられたって聞いてるし……なのはちゃん、相手にしちゃ駄目だ!!』 『見つからないうちに、早く逃げ……え!?』 「……エイミィさん、ミライさん?」 『そんな……大変、なのはちゃん!! フェイトちゃんが……!!』 「えっ!?」 エイミィとミライは、モニターに映し出された光景を見て驚愕していた。 仮面の男により、フェイトのリンカーコアが摘出されてしまった。 幾らなんでも、仮面の男の移動が早すぎる……完全に、予想外の事態だった。 すぐにエイミィは、本局へと連絡して医療スタッフの手配を要請。 その後、アルフにフェイトを救出するよう指示を出した。 「エイミィさん、フェイトちゃんは!!」 『リンカーコアをやられちゃった……!! 今、急いで本局の医療スタッフを送ってもらってる!!』 「分かりました、私もすぐそっちに……キャァッ!?」 フェイトの元へと駆けつけようとするなのはへと、無慈悲な一撃が繰り出された。 それは、レッドキングが投げつけてきた大岩だった。 不運にも、彼女はレッドキングに見つかってしまったのだ。 とっさになのはは、上空へと上昇してそれを回避する。 レッドキングはなのはを一目見るや、敵と判断してしまっていた。 その強い闘争本能に、火がついてしまっていた……最悪としかいいようがなかった。 この様子じゃ、戦う以外に無い様である。 「こんな時に限って……!!」 『なのはちゃん、僕がすぐそっちに行く!! それまで、何とか持ちこたえて!!』 「はい……分かりました!!」 敵のサイズを考えると、確かにミライが一番の適任になる。 彼の到着まで持ちこたえるか。 もしくは……彼が到着する前に、レッドキングを撃破するか。 今は、一刻も早くフェイトの元に向かいたい。 撃破とまではいかなくとも、ミライの到着までにある程度のダメージさえ与えられれば、大分楽になる。 幸いにも、消耗は殆どしていない……やれなくもない。 「いくよ……レイジングハート!!」 『Yes sir』 戻る 目次へ 次へ
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「それでは、フェイトちゃんの嘱託魔導師試験合格を記念して・・・」 「乾杯!」 アースラ艦内では、本局で試験を終えたフェイトのささやかな祝賀会が開かれていた。最低限のオペレーター以外は食堂に集合し、そ の主役のフェイトはその中で恥ずかしそうにしつつ、皆に持ち上げられていた。 「あ・・・ありがとございま」 「飲めー!歌えー!騒げー!デストローイ!!!」 「ハイ、ハイ、ハイハイハイハイリンディ提督のちょっといいトコみてみたーい!!!」 「YEAAAAAAAAAAAAAAAAAAHUUUUUUUUUUUUUUUU!!!!」 ささやかと言うには騒ぎ過ぎである。この艦の理性でもあったクロノ・ハラオウンがいないと言う事はこれほどまでに混沌を呼ぶのか。 「どーしたのー?フェイトちゃんの為の宴なのに~」 「リンディ提督、いえ、その・・・うわ、酒臭」 「ぶふ~ん、リンディママに全部話して御覧なさ~い、っていうかなのはちゃんでしょ~?」 「・・・はい」 その時、通信音が響き、ヘッドセットをつけっぱなしのエイミィが出た。 「はいはい~ああ、クロノ君?」 通信に応対するエイミィのさりげない言葉に戦慄が走り、全員が一瞬で凍りつく。 「うん、今フェイトちゃんの試験終わって・・・え?組織の人と連絡取りたい?わかった・・・最寄の電話ボックスと組織の人を繋ぐから」 「組織・・・?」 フェイトがリンディに怪訝な顔をして尋ねる。リンディは少々顔を引き締める。 「ええ・・・クロノとなのはちゃんには今、捜査の依頼が来ていたからそちらに向かってもらっていたの、後数時間で定期連絡が来るだろう し、その時に一度戻ってもらうように言っておきましょうか?」 「いえ・・・大丈夫です、ですが」 フェイトは真っ直ぐにリンディを見つめ、言った。 「私の方から会いにいきます」 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ネアポリス市内のケーブルカー 車掌の笛の音が響く。 「ふぇぇー!!待ってぇ!待ってください!」 ドアが閉まりきる前に間一髪滑り込んだなのは、周りの乗客の注目の的となり、軽く誤魔化し笑い。 「危なかったぁ・・・」 「もう少し待ってくれてもいいよね・・・外国の交通はしんどいよ・・・」 席を探すなのはとユーノだがその最中とんでもない人物を見つけてしまった。 「あ」 「あ」 「あ」 先程空港で自分達を騙した人物・・・ジョルノ・ジョバーナと聞いた彼がボックス席にいた。 「えと・・・座ってもいいですか?」 「え?いや、ああ、どうぞ・・・」 ジョルノと向かい合って座るなのは、荷物は通路側に置く。なのはの横の座席にユーノがちょこんと座る。 「君は・・・いや、覚えてないのか・・・?」 「さっき、空港で会った、ジョルノ・ジョバーナさんですよね?」 「・・・ああ、そうだけど・・・」 「荷物・・・無いんですか・・・」 若干落胆した顔を見せるなのは、ジョルノはそこで話を切り出す。 「その・・・さ、こう言うのは何だけど君は危機感が足りないように思えるんだ、僕が泥棒まがいの事をしていると知っているならわざわざ近寄ったりしないと思うし、荷物だって抱えて持つほうが安全じゃないか?」 「じゃあ、また盗むんですか?」 流石のジョルノも頭痛を覚えた。 「出来るなら今やってみてください」 「(なのは・・・ちょっと怒ってる・・・?)」 「(うん)」 念話での会話すら・・・いや、念話だからこそなのはの静かな怒りが伝わってきた。元よりなのはは曲がった事が嫌いであった、如何なる 理由があっても、どんな境遇であろうと、犯罪に手を染める事を許せない、頑固で真っ直ぐな性格であった。 「出来るのなら今すぐに、盗んでみてください」 「・・・なら、遠慮無く」 ジョルノは即座になのはの荷物を掴む、だが、そこまでだった。 「これは!?重い・・・!!」 出発前 「はいこれ、なのはちゃんは女の子だから色々入れなきゃいけないでしょ?盗まれたりするかもしれないし、特性のスーツケースを用意したのよ」 「なのはちゃんの魔力波動を登録すれば他の人には開けるどころか持つ事すら出来ないようにしてみたよ、開けっ放しには注意してね」 「ありがとうございます、エイミィさん、リンディさん」 「提督・・・僕には・・・」 「それじゃあいってらっしゃい」 「・・・はい・・・」 ジョルノは自分の判断が間違っていた事に気付いた。 この少女は・・・危機感が無いのではない。 危機感を持って、あえてこの場所にいるのだ・・・と 「そうか、お前がジョルノ・ジョバーナか・・・」 そんな中、唐突に話しかけてくる男がいた。ケーブルカーの上の方からゆっくりと歩いてくる、おかっぱ頭の男。 「・・・あんた、誰です?」 「あ、すみません、今ちょっと取り込み中なのでお話なら後にして・・・」 なのはの言葉が途切れる、そばで見ていたユーノは男がなのはに向かって手を突き出したのを見た。 「すまないが・・・ちょっと話したい事があってね、少し時間をもらうよ」 男がすぐに手を離した、にも拘らずなのはは口を塞がれたかの様に呻いている。 「むぐッ!?むぐう!!?」 『ジッパー』がなのはの口に縫い付けられている所為で喋れないのだ。 「ば、馬鹿な!?こんな事が・・・」 「ジョルノ・ジョバーナ、率直に聞きたい・・・このような能力を使う者を見た事は無いか?」 「この様な・・・他にも能力を持つ者がッ!!」 殴った。振り下ろすような拳がジョルノの顔を打ち抜く。 「質問はいらない、ただ答えればいい・・・ここ数日ギャングの中で腕に心得のあるやつが連続して狙われている・・・俺の仲間もその襲撃にあっている、それはどうやら特異な能力を持った奴らが、何らかの目的で集中してここ一帯を狙っている・・・という事なんだ・・・」 「・・・」 「お前が空港周辺で稼いでいるのは知っている・・・だから、妙な奴が来たなら一番お前が詳しいと思ってな・・・」 「・・・魔術士連続襲撃事件か」 「(ゆ、ユーノ君!)」 男が声の方向に向き直る、しかしフェレットであるユーノを当然無視してなのはへと。 「今のは君の声かい?オカシイ、な?口を閉じているのに喋るなんて・・・それに何やら・・・連続襲撃事件と聞こえたが気の所為かい・・・?」 「(ごめんなのは・・・!!)」 「・・・」 なのはは何も言わずじっと堪えた。男はそれを恐怖で緊張していると感じ取ったのか、少し優しい口調で 「じゃあ一つだけ答えてくれないかな・・・?俺の言ったギャングが連続して狙われている事件について、君は心当たりがある・・・イエスかノーか首を動かして答えてくれ」 イエスと応じれば、当然更なる追及を受けるだろう。 ノーと応じれば・・・解放してはくれないだろう、解放してくれたとしても背後関係を洗われる。 どちらも選べない状況で逡巡するなのは、顔に一筋流れる汗を ベロンッ! 男が舐め取った。 「!!??!?!?」 「(こいつ・・・!!)」 「・・・」 「俺ね・・・人が嘘をついてるかどうか汗の味で解るんだ・・・この味は答える事に嘘・・・つまり答える事を隠したい・・・って事」 今度はなのはの肩口から二の腕の辺りまでがジッパーで大きく開かれた。 「ムゥー!!ムグゥー!!」 なのははすっかり気が動転していた。無理も無い、こんな身の危機では成人男性ですら悲鳴を上げて逃げ出す程だ。 「もう少し、話を聞く必要があるようだな・・・俺の名はブローノ・ブチャラティ・・・あまりにだんまりが続くようなら質問を『拷問』に変える必要があるぜ・・・」 「(なのは!!目くらましと解呪をセットでぶつける!!この場は脱出だ!)」 念話の声に理性を取り戻すと同時に、閃光弾の様な光が炸裂した。 「ぐぅっ!!?」 「うああッ!!」 ジョルノとブチャラティが目を押さえて仰け反る。 解呪によって身体のジッパーが無効化した事を確認すると、脱出経路を探そうと目を走らせた刹那、なのはに見えた。 『Protection』 窓の外で鉄槌を振りかぶる少女の姿が 「おらあああぁぁぁ!!!!」 窓ガラスを突き破って来た少女の鉄槌がなのはのプロテクションに食い込み・・・ぶち破った。 衝撃でそのまま反対側の壁まで吹っ飛ばされるなのは 「っかはっ・・・」 瞬時にバリアジャケットを展開していなかったら壁に叩きつけられて気絶していただろう・・・同時にレイジングハートを展開し、対峙するなのは。 「誰なの!?」 「命はもらわねぇ・・・おとなしくやられてくれ」 to be continue・・・ 前へ 目次へ 次へ